Gift - illustration
今泉梨香子 第六夜
ショートストーリー
 梨香子と良一、その後……


 あれから、本当に大変でした。彼のときもそうだったのですが、わたしが一晩ですっかり回復してしまったものだから、お医者様がパニック状態。こんなことを言うと怒られちゃうけど、わたしと良一さんは、驚くお医者様を見て、ちょっと笑っちゃいました。だって、先生ったら、頭がおかしくなったから、自分こそ精神科に通わなきゃって、真剣な顔で言うんですもの。ごめんなさい先生。あなたの頭は正常です。

 やはり、彼のときと同じく、わたしも一週間ほど、いろんな検査をされて、やっと病院から解放されました。正直言って、その検査だけで、また病気になっちゃいそうな気がしましたけど(変な薬を打たれて、CTスキャンで頭の中身まで機械で見られたんですよ)、心はとっても軽かった。

 あと、三十八年の人生。長いのか短いのか、わたしにはわかりません。でも、ひとつだけわかっていることがあります。今度、彼にプロポーズされたら、わたしは逃げ出したりしません。答えも用意してあります。

 あ、その前に。じつは、少しだけ困ったことがあるのです。病院を退院して、彼のアパートに行ったときのことです。

「そうかなあ」
 良一さんが、頭をポリポリ掻きました。
「ぼくは、倉木麻衣の方がいいと思うけどなあ」
「ううん」
 わたしは首を振りました。
「ぜったい、浜崎あゆみの方がいいわ」
「じゃ、ビートルズは?」
 と、彼。
「うん。ビートルズはいいわね。ポール・マッカートニーが好きだわ」
「ええっ、ジョン・レノンじゃないの?」
「ポールよ。彼の歌声って、すごく綺麗。大好き」
「ぼくは、ジョンだよ」
「正直に言うわ。じつはジョンの声って好きじゃないの」
「ううむ。じゃあモーツアルトはどう?」
「わたし…… ショパンの方が好きだわ」
「ぼくたちって、もしかして音楽の趣味合わない?」
「うん。そうかも」

 なんてことがあったんです。ふふ。しょうがないですよね、こればっかりは。

 でも、こんなことで喧嘩できるなんて(喧嘩ってほどでもないけど)、すごくステキだと思いませんか?
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