|
みなさん、こんにちは。川島可憐です。
え？ だれだお前ですって？ ひっどーい。ぼくの願い、第二夜を読んでないわけ？ ちゃんと、あたしの活躍を読んでよね。
今回は、家族で三人でモルディブに遊びに来ました。家族と言っても、浅野祐子さんは、まだパパと結婚してないから正確に言うと、まだ家族じゃないけどね。
ねえ、聞いてよ。あれから、けっこう大変だったんだから。パパはべつだん有名でもなんでもない学者だけど、浅野さんは女優。それもテレビで大活躍してる人よ。さすがに最近はドラマの主役とか少ないけど、それでもＣＭにけっこう出てるし（冷蔵庫の宣伝知らない？）、知名度は抜群。どっかの無人島で十五年ぐらい暮らしてた人ならともかく、普通の日本人で、彼女を知らない人はいないわ。
そんな浅野さんが、あたしのパパと婚約発表なんかしたもんだから、もう大騒ぎ。パパは連日マスコミに追い掛けられて、かなり疲れちゃったみたい。そりゃ、そうよね。浅野さんと付き合うまで、テレビなんかニュースぐらい（それもＮＨＫよ）しか見なかった人だもん。芸能記者のあしらい方を知ってるわけないし、もともとまじめな性格だから、記者の質問とかキッチリ答えちゃうタチなのよね。そんなことしてたら、疲れるに決まってるじゃない。
で、あたしの方は、少しだけ質問されたけど、べつだん追い掛けられるなんてことはなかった。さすがの芸能記者も、未成年相手だと分別があるみたいね。ちょっと残念。あたしはウエルカムなんだけどなあ、マスコミ。いまのうちに顔を知られとくのも悪くないと思ったのよ。まあ、いいけど。
というわけで、わたしたちは、日本を脱出して、南の島に旅行に来たってわけ。ちょうどあたしも春休みだったからね。パパと浅野さんにとっては、やっと静かな日常が戻ってきたってところだろうけど、あたしにとっては、ラッキーって感じ。だって、南の海って大好きなんだもん。パパと海外旅行なんて初めてだしね。（ホントは、パパと別れたママがフランスにいるから、フランスには一回だけパパと行ったことあるけど、あれは旅行って感じじゃなかったもん）。
さてさて。いままでの告白を読んで、今度の旅行を一番喜んでいるのは、あたしだと思ってるでしょ？ それが違うんだなあ。やっぱり、一番喜んでるのは浅野さんよ。パパもだけど、浅野さんったら、ホント子供みたい。あたしがいなかったら、もうパパにべったりよ、きっと。本当に、パパのこと愛しちゃってるんだなあって思うとね、じつは、少しだけ妬ける感じ。だってあたし、ずっとパパと二人で暮らしてきたんだもん。パパと浅野さんが結婚するのは、あたしが望んでたことでもあるんだけど、それでもねえ。なんとなく複雑な気分なわけよ、娘としては。まあ、いいけど……
あたしが、ラブラブな二人に遠慮して、ビーチで友達へのメールを書いてるときだった。浅野さんがジュースを持って一人でやってきたの。
「可憐ちゃん、ちょっとお邪魔していい？」
浅野さんは、ジュースを置きながら言った。
「うん」
あたしは言った。
「いいけど、パパは？」
「お昼寝中よ」
浅野さんは、あたしの向かい側に座った。
「きのうの晩、大学に送るメールを遅くまで書いてて、少し疲れてるみたい」
「やだなあパパったら。遊びに来てまで仕事するなんて」
「仕方ないわよ」
浅野さんは、肩をすくめた。
「急な旅行だったもの。それに、ここしばらく、マスコミに追い掛けられて、仕事どころじゃなかったみたいだし」
「まあね」
あたしも肩をすくめた。
「でも、せっかくの旅行だもん。楽しめばいいのになあ、パパも」
「楽しんでるわよ」
浅野さんは、ニッコリ笑った。
「ここだけの話だけどね、可憐ちゃんと旅行にこれて、とてもうれしいみたいよ、宗一郎さん」
「うそ。浅野さんとだからでしょ？」
「違うわよ。ずっと、娘と旅行に行きたかったみたい。ホントよ」
「あら。あたし、浅野さんとパパのお邪魔虫だと思ってたんだけど」
「バカね。そんなことあるわけないじゃない。わたしも可憐ちゃんと旅行にこれて楽しいわ。これからも、たくさん一緒に遊びましょ」
あたしは心の中で苦笑い。そんな気を使わなくってもいいのに。
でもよかった。この人となら、パパもきっと幸せになれるよね。
そして、あたしもね！ |
|
