Gift - illustration
ピンキー
ショートストーリー
 ハーイ! みんな元気? 夏バテしてない? あたしの特製ブレンド麦茶をご馳走してあげたいけど、ま、それは無理っぽいから、咲耶すみさんが描いてくれた、あたしのセクシーショット見てがまんしてね。

 とっころでえ、あたしが大活躍してるWonderCat読んでくれた人は、怪盗ルバーンがどうなったか、気になってるんじゃない?

 えへへ。ごめんねーっ。それは秘密なんだ。だって、ここであたしがペラペラしゃべっちゃったら、WonderCatのパート2ができたとき、つまんないでしょ。まあ、題名そのものは変わるだろうけどね。だって、WonderCatは、もういないもんね。ただ、ルバーン事件でも、あたしが大活躍したってことだけは言っとくね。あ、洋一くんも、またまたがんばったんだよ。それどころか、安田さんまで、アシスタントで使っちゃうんだから、長平も人使いが荒いよねえ。ま、安田さんのほうは、長平に頼られて、すっごく、喜んでたけどね。え? 豪徳寺警部? うーん…… まあねえ、あのオッサンは、ああいう人だからねえ。あはは。これ以上は、もう秘密だよ。

 と、これだけじゃあ、なんか宣伝してるだけみたいだからあ、今日は、べつの事件について報告しまーす!

 あの日は、長平が出かけてて、あたし一人で事務所で留守番をしてたんだ。そしたら、ドアをノックする音が聞こえたから、あたしは、お客さんかなと思って、ドアを開けたの。
 そしたら……
「こんにちは」
 って、ドアの外でペコッと頭を下げたのは、十歳ぐらいの男の子だったのよ。
「ぼく、どうしたの?」
 あたしは、その子に聞いた。
「ここは探偵事務所なんだよ」
「うん。知ってるよ」
 男の子はそう言って、あたしの身体をすり抜けるようにして、中に入っちゃった。
「ちょ、ちょっと、ぼく! 勝手にはいっちゃダメだってば!」
「ねえ、お姉ちゃん!」
 その少年は、あたしの言葉なんか無視して言ったの。
「ここって、有名な探偵さんの事務所なんでしょ!」
「そ、そうよ」
 あたしは、思わずうなずいた。
「じゃあ、ぼくのお母さんを助けてくれるよね!」
「へ? それってどういうこと?」
「お母さんが、悪い人に脅されてるんだ。だから助けて!」
「ホントに? 大変じゃない! お巡りさんに話さなきゃ!」
「ダメだよ!」
 少年は、あたしがお巡りさんって言ったとたん。すごい勢いで言った。
「お巡りさんなんか、当てにならない。だから、ぼく、ここに来たんだ。ねえ、有名な探偵さんはどこ?」
「いま、出かけてていないのよ。それよりぼく、ちゃんと話してよ。お母さんが脅されてるんでしょ?」
「うん。夕べ、怖いオジサンが来て、お母さんを泣かせてたから」
「それで?」
「それだけだよ」
「待って。その怖いオジサンは、お母さんになにかしたの? たとえばその、えーと、殴るとか?」
「ううん。ただ、話してただけだよ。でも、そのオジサンが帰ったあと、お母さんすごく悲しそうな顔してたんだもん」
「どんな話をしてたの?」
「ぼくは、自分の部屋に行かされたから、話は聞いてないよ」
「その、怖いオジサンは、ぼくの知ってる人じゃないのね?」
「う、うん……」
 少年は、ちょっと戸惑った顔をしたあとに、大きな声で言った。
「知らないよ、あんなオジサン!」
「そう……」
 知ってるわね、これは。あたしは、直感的にそう思った。
「とにかく、それだけじゃ、警察もどうにもできないわよね。まあ、長平だってどうにもできないだろうけど」
「お金ならあるよ!」
 少年は、背負っていたディバッグを下ろして、なかから、封筒を出した。
「はい! これでお母さんを守って!」
 あたしは、もちろん、その封筒を受け取るようなことはしなかった。
「あのね、ぼく。そんなこと言われても困っちゃうんだけど」
 そのとき、電話が鳴った。
「ちょっと、待っててねぼく」
 あたしは電話を取った。
「はい。八神探偵事務所です」
『おう、ピンキー。オレだ豪徳寺だ。八神はいるかい?』
 電話の相手は豪徳寺警部だったの。
 そしたら。
 少年は、ソファテーブルに、その封筒をおいて、出口に向かった。
「ちょ、ちょっと待って警部」
 あたしは、あわてて受話器に手を当てて、その少年に言った。
「ぼく! どこ行くの!」
「お姉ちゃん。ぼく、ちゃんと頼んだからね。ぜったい、お母さんを守ってよね」
 少年はそういうと、逃げるようにドアをあけて出ていった。
「ま、待ってよ!」
 あたしは、乱暴に受話器を放り出すと、少年を追った。その少年は、ちょうどエレベーターに乗るところだった。
「待ちなさい!」
 あたしが、叫んでも少年は待たなかった。あたしは、毎日マウンテンバイクで鍛えてる足で、ダッシュしたけど、あと一歩のところで、エレベーターがしまっちゃった。
「なめんじゃないわよ! 十歳の子供に逃げられてたまりますか!」
 あたしは、エレベーターホールで叫んだあと、猛烈な勢いで、階段を駆け降りた。
 でも……
 あたしが一回に到着すると、もちろん、エレベーターのほうがはやくて、少年の姿はもう玄関ホールにはなかった。あたしは外に飛び出たけど、そのとき、自転車に乗って、走り去る少年の後ろ姿をちらっと見ただけだった。あたしは、すぐ、自分のマウンテンバイクに飛び乗ったけど、チェーンがかけてあるのを思い出して、あわてて、チェーンをはずして、少年が逃げた方向へ走った。
 間に合わなかった。もう、少年の姿はどこにもなかったの。
「くっそーっ! 逃げられちゃった!」

 事務所に戻ったあたしは、放り投げてあった受話器を耳に当てた。さすがの豪徳寺警部も待ってなかった。ツーツーツーって、音が聞こえるだけ。あたしは、受話器を戻して、ソファテーブルに置かれた封筒を手にとって、中身を確かめてみた。
「うわ。ホントにお金が入ってるよ!」
 あたしはビックリ。だって、千円札が五枚も入ってたんだもん。そのとき。なかに、小さなメモ用紙が入ってるのに気づいた。
 またまた、電話が鳴った。
「はい。八神探偵事務所です」
『おっ、ピンキー、さっきはどうしたんだよ?』
 豪徳寺警部だった。
「バカ。警部のバカ」
『は?』
「警部のせいで逃げられたんだからね」
『なにが?』
「男の子よ。まったく、近頃の子って、なに考えてるわけ?」
『近頃の子って…… ピンキー。おまえいくつだよ?』
「うるさいわね。それよりなによ?」
『なんか、ご機嫌斜めだなあ。八神はいる?』
「いると思う?」
『いないと思う』
「だったら、聞かないでよね!」
『ひえええ。ごめんなさい。またかけ直します!』
 警部は電話を切った。ったくもう。タイミング悪いオッサンなんだから。
 あたしはタメ息をついてから、もう一度封筒を手にとった。中のメモ用紙と、千円札を全部外に出す。うん。これだけみたい。封筒にはなにも書いてないわ。
 あたしは、一応、探偵の助手っぽく観察したあと、その四つ折りになってるメモ用紙を開いた。そこには、うちの事務所の近くの銀行の名前と、女の人の名前が書いてあった。
「これが、お母さんかしら……」
 あたしは、一人つぶやいたあと、無駄だと知りつつ、長平の携帯電話に電話してみた。長平はやっぱり電話に出なかった。電源が入っていないか電波の届かないところにいるって声が聞こえるだけ。今日は、夜まで連絡がとれないって言って出ていったんだからしょうがないけど……
「あーもう! どうしたらいいって言うのよ!」
 あたしは、ちょっと癇癪を爆発させてから考えた。
「ダメもとで、この銀行に電話してみよう。えーと、みずは銀行の広尾支店の電話番号はっと……」
 あたしは、電話帳で、銀行の電話番号を調べて電話した。
『はい。みずは銀行広尾支店でございます』
「あ、えっと、そちらに、長谷川早苗さんいらっしゃいますか?」
『失礼ですが、どちらさまでしょうか?』
「吉岡といいます」
 あたしは、八神探偵事務所の名前は出さなかった。長平に、事情がわからない場合は、うかつに探偵事務所って言わないほうがいいと教わってあったの。相手が警戒したり、不審に思ったりする可能性があるから。
『しばらくお待ちください』
 三十秒ぐらい待たされて、長谷川さんが出た。
『もしもし。お待たせしました。長谷川です』
「あ、どうも。長谷川早苗さんで、間違いありませんよね?」
『ええ。どういったご用件でしょうか?』
「あの、あたし八神探偵事務所のものなんですけど、長谷川さんには、十歳ぐらいの男の子どもがいますか?」
『え? ええ、おりますけど…… 祐介がなにか?』
「じつはいまさっき、お母さんを助けてほしいと言って、うちの事務所に来たんです。それで、五千円と長谷川さんが勤めている会社のメモを残して逃げちゃったんですよ」
『ま、まあ……』
 長谷川さんは、だいぶ驚いた様子だった。
『それは、とんだご迷惑をおかけしました。申し訳ございません』
「あの、立ち入ったことをお聞きしますけど、きのうの晩、男の方となにか話し合われていたとか? それであの子――えっと、祐介くんでしたね――が、不安になったようなんです。どういうことでしょうか?」
『いえ、それは、個人的なことですから。祐介にちゃんと話さなかったわたしが悪かったんです。ご迷惑をおかけしました』
「お金をお返ししたいんですけど」
『いえ、けっこうです。どうぞ、そのまま…… というわけにはまいりませんね。後日、お詫びをかねてうかがいます』
「うちから近いから、あとでお持ちしてもいいですよ」
『いえいえ。それには及びません。こちらからうかがいます』
「そうですか。よろしくお願いします」
 あたしは電話を切った。
 ふう。一応解決。よかった。
 でも、なんか腑に落ちないわねえ……
 あたしは、今日のことを長平に話そうかどうしようか迷った。終わってみれば、べつに大したことでもなかったし。
 でも……
 なーんか、気になるのよね。事件の匂いがするよ。それに、あたしがいないときに、長谷川さんが来たら、事情を知らない長平が困るだろうし。
 よし。いっちょ、気合を入れて書きますか!
 あたしは、そう思って、いままで起こったことを、ぜんぶ、漏らさずにメモに書き込んだ。祐介くんの態度とか、長谷川さんが電話に出たときの印象とかも、ぜんぶ。なんかすごく長い作文になっちゃったけど、ま、いっか。書き終わると、祐介くんがおいていった封筒と一緒に、長平の机の上においた。
 そろそろ、あたしも学校に行かなきゃいけない時間だったんで、火の元と戸締りを確認してから事務所をでた。

 翌日。
 いつも通り、八時半に事務所に行くと、長平と豪徳寺警部がいた。
「あれ〜っ。どうしたの二人とも。バカに早いじゃん」
「ピンキー」
 と、長平。
「きのうの報告書はよくできていた。相変わらず漢字が少ないのが難点ではあるが、事情を把握するには十分な出来だ」
「報告書?」
 あたしは首をひねった。
「大げさだなあ。あれはただ、きのうあった出来事を書いただけだよ」
「ああ。そうだろうね。だが、きみは、起こったことを、ひとつも漏らさずに書いた。その判断は正解だった。おかしな少年がお金をおいていって、母親が、そのうち謝りに来るとだけ書いてあったら、ぼくも、調べてみる気にはならなかっただろう」
「やっぱ事件? なんか、そんな匂いを感じたんだよね。で、なにを調べたの?」
「話はあとにしよう。そろそろ時間だ。仕事に行こうじゃないか」
「おう」
 と、豪徳寺警部が言った。
「ピンキー。ことの顛末を知ったらビックリするぜ」
「な、なによなによ? どーいうこと?」
「いいから、来たまえ。じつは、きみを待っていて、いささか予定が遅れている」
 長平はそう言って、さっさと事務所をでた。あたしも、豪徳寺警部と一緒に長平を追った。
「ねえ、どういうことよ」
 あたしは、エレベーターに乗ってから、長平に聞いた。
「ああ。どうも、銀行に勤務しているというのが気になってね。その長谷川という女性の自宅を調べて、きのうの晩に電話をかけてみた。案の定だったよ」
「案の定って?」
 エレベーターが一階に着いたので、あたしたちは外に出て、みずは銀行に向かった。
「ねえ、それでそれで?」
 あたしは、歩きながら、長平をせっついた。
「ああ」
 と、長平。
「最初、長谷川早苗はごまかそうと必死だったが、あなたのやろうとしていることは、祐介くんの将来に重大な精神的重圧を背負わせることになるとカマをかけた。これで、長谷川早苗は、すべてを告白してくれた」
「犯罪をやろうとしてたの? あ、まさか、自分の銀行を襲うとか?」
「そのまさかだ。訪ねてきていたのは、祐介くんの父親だよ」
「やっぱりね。祐介くん、その男を知ってると思ったんだ」
「その印象も、ちゃんと書かれていたな。きみの観察眼は確かだ」
「ありがと。そっか、それで。わかったわ。だからあんなに警察はダメだって言ったのね、あの子。薄々犯罪っぽいと勘づいてたんだわ」
「その通りだよ。その男は、祐介くんの父親だが、長谷川早苗の夫ではない」
「離婚したの?」
「いいや。もともと結婚していないのだよ」
「内縁の妻?」
「おやおや」
 と、豪徳寺警部。
「ピンキーも、すごい言葉を知ってるじゃんか」
「もう。バカにしないでよ」
「うはは。悪い悪い」
「話を戻そう」
 と、長平。
「その男は、ある暴力団の組員だ。長谷川早苗は、十一年前のある日。ちょっとした気の迷いから、その男と関係し、祐介くんを身ごもってしまった。それから、彼女の地獄が始まったのだ。その男は、生かさず殺さず、彼女から金をむしりとっていたんだよ」
「ひっどーい。なんでもっと早く警察に話さなかったのかしら?」
「祐介くんの父親が、暴力団関係者と知れるのを恐れたからだ。だがついに、彼女も決心してくれた。銀行強盗の片棒を担がされては、さすがにたまらない」
「どうして、いままでチビチビやってたのに、いきなり、デカく出たのかしら?」
「組の幹部になるための上納金が必要だったんだ。十一年前のチンピラも、それなりに出世していたらしい」
「なるほどねえ」
 あたしが納得したころ、あたしたちは、みずは銀行の前についた。まだ九時前で、銀行のシャッターは降りていた。
「警部。配置はいいかい?」
「おう。準備オッケイだぜ。こっちの壁によってくれ。ここからなら、ヤツらに見えない」
 あたしたちは、警部がいったとおりに移動した。そしてあたしはまわりを見回した。なにも見えなかったけど、たぶん、私服の刑事さんが、何人も身を潜めてるんだろうなと思った。
「ねえ。長谷川さんは、なにか罪に問われるの?」
 あたしは、豪徳寺警部に聞いた。
「いいや」
 豪徳寺警部は首を振った。
「脅されてやったことだ。罪はねえよ。それに、オレは彼女が、警察に通報しなかったことは知らない」
「どういうこと…… あ、そうか。わかったわ」
 あたしは、にっこりほほ笑んだ。
「長谷川さんが、最初から警察に話をしてて、ちゃんと捜査に協力してたことにするのね」
「さあ、知らねえな。長平が、おとり捜査の指示をしてただけなのは聞いてるけどよ」
 豪徳寺警部は、そう言って、あたしにウィンクした。
「うふふ。さすが警部。人情派だね」
「バーカ。それを言うなら、長平だろうに。クールな顔して、罪を憎んで人を憎まずだよ、こいつは」
「そうだね」
 あたしは、クスッと笑った。こうして、あたしが長平の助手をやってるのも、長平に拾ってもらったおかげだった。
「さあ、おしゃべりはやめたまえ。来たぞ」
 黒いワゴン車が、銀行の裏口に止まった。
 とたん。マスクをした男たちが、裏口をあけて中に押し入った。長谷川さんが開けておく手はずになっていたんだと思う。
 男たちが銀行にはいると、隠れていた警官が、わっとワゴン車を取り囲んで、運転手を逮捕した。
 それから数分。押し入った男たちも、中にいた警官に捕まって出てきた。
「お見事」
 と、長平が言って、豪徳寺警部に握手を求めた。
「うはは」
 豪徳寺家部は、長平の握手に応じると、あたしの手も握った。
「ありがとよ、ピンキー。これでオレの点数もぐんと上がったぜ」
「おめでと、警部」
 あたしは笑った。いつも損な仕事ばっかりしてる人だから、たまには楽な仕事をしてもいいよね。
「んじゃあな。オレは現場の指揮に行くぜ」
「ああ。楽しい記者会見をしてくれたまえ」
「おう!」
 豪徳寺警部は、あたしたちに手をあげて、警官たちのほうへ駆けていった。
「ねえ、長平」
 と、あたし。
「祐介くんからもらった五千円、どうしたらいいんだろう?」
「領収書を送ってあげたまえ」
「もらっちゃうの?」
「もらったのではない。ちゃんとした仕事の報酬だ。それに、きみの報告書にあるとおりの少年なら、お金を返されたら、かえって気を悪くするんじゃないかな?」
「うん。そうかもね。生意気なガキだったもん」
「きみから、そういう意見を聞くようになるとは、ぼくは、とてもうれしいよ」
「どういう意味よ?」
「べつに」
 長平は笑った。
「さあ、事務所に戻ろう。冷たいアイスティーを入れてくれたまえ」
 長平は、事務所に向かって歩き始めた。
「あ、待ってよーっ! ねえ、どういう意味なのよーっ!」
 あたしは、長平を追いかけながら叫んだ。


 いかがでした? こーんな事件が、つい最近あったんだよ。まったく、名探偵の助手っていうのは楽じゃないよね。

 じゃ、またね!
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