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Dr.ゲロ
ショートストーリー
 アラスカのとある場所。
「ゲロ様ァ〜」
 ゲロの部下が、土の入ったバケツを運びながら情けない声を出した。
「うむうむ。なんじゃ?」
「いえね。あたしゃ、ふと疑問に思うことがあるんですよ」
「うむうむ。だからなにがじゃ?」
「もう六年ですよォ〜 ホントにこんなことやっていて、刑務所を脱走するトンネルが掘れるんですかァ〜」
「うむうむ。スプーンで穴を掘ってることに対する疑問と疑惑のこもった声じゃな」
「説明的なセリフありがとうございます」
「うむうむ。どういたしまして。じゃなくて、心配するな。わしの試算では、あと三ヶ月で開通する予定じゃ」
「ホントですかァ?」
「うむうむ。まだ疑っとるな。ここにわしらが登場するということは、次回作があるという証拠じゃ。複線ってヤツじゃな」
 こら。勝手に続編に結びつけるな。(←神の声)
「ゲロ様。いま天から声が聞こえましたよ」
「うむうむ。テンション下がっちゃうぞい」
「わたし、下がりっぱなしですよ」
「うむうむ。バカタレ。悪はパッションじゃ。モチベーションが大事じゃ。今度こそ世界征服の野望を達成させるのじゃ」
「でもねえ…… 堀の外じゃ、相変わらずスーパーマンが活躍してますよ。わたしらの活躍の場なんかあるんですかね」
「うむうむ。おまえ、この世には三つの坂があるって言葉を知らんのか」
「三つの坂ですか?」
「うむうむ。わかるか?」
「いえ、上り坂と下り坂はわかりますが、あとひとつがわかりません」
「うむうむ。そうじゃろうとも。わしのような悪の天才でなければわからんのじゃ。ジーニアス、ドクター・ゲロとは、わしのことじゃ」
「ジニアスでも仁丹でもなんでもいいですから、教えてくださいよ」
「うむうむ。それは、『まさか』じゃ」
「まさか?」
「うむうむ。そうじゃ」
「なんか、飲み屋でクダ巻いてるオヤジの駄洒落みたいですね」
「うむうむ。文句は毛利元就に言ってくれ」
「なんだ。ゲロ様のオリジナルじゃないんだ」
「うむうむ。うるさいわい」
「で、ゲロ様。われわれは、どの坂にいるんですか?」
「うむうむ。上り坂に決まっとろーが。そんでもって、わしらがスーパーマンを倒して世界を征服するという、まさかを起こすのじゃ」
 そのとき。ボコッと土が落ちてきて、トンネルの天井が崩れた。ぽっかりと穴が開く。そこには看守の覗き込む顔が見えた。
「また、おまえらか。ホント懲りねえなあ」
 と、看守。
「ゲロ様」
 と部下。
「下り坂だったみたいですよ」
「うむうむ。バカタレ。これが、まさかじゃ」
 どっちにしても、上り坂ではない二人だった。
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