冥王星に迫れ!


神宮寺珈琲店 其の弐が書き上がったころ、30億キロ彼方を飛んでいる惑星探査機、ニューホライズンズから通信が入りました。

「観測終わったぜー!」

といったわけではないはずですが(笑)、冥王星に接近しているとき、ニューホライズンズは、すべての観測機器を総動員していて、地球と交信している余裕がない。だから通信を切ってたんですよ。

そして日本時間の15日未明、ニューホライズンズから通信が入り、最接近とフライバイが、無事に成功したことを伝えてきたのでした。

やったー!


Credits: NASA/Bill Ingalls

大よろこびの、NASAスタッフ。そりゃ、うれしいでしょ!

しかし、失礼ながら、平均年齢高そうね、ニューホライズンズのスタッフって(笑)。

オホン。というのはともかく。

いままで、われわれ人類が手に入れることができる冥王星の写真といったら、これでした。


NASA

ハッブル宇宙望遠鏡で撮られた写真。しかもこれ、一回撮影した写真じゃなくて、何枚も撮影し、画像処理技術を駆使して再現したもの。それでも、こんなぼやけた写真しか撮れない。地球軌道上ではこれが限界。

がっ!

ニューホライズンズが、13日に撮影した冥王星がこちら。


Credits: NASA/APL/SwRI

どーよ。

もー、雲泥の差というのは、このことですよ。

しかもこれ13日の写真ですからね。一番近づく1日前。ニューホライズンズは、秒速14キロという超高速で飛んでいるので、日に日に写真が鮮明になっていくのだ。はたして14日は、どんな写真が撮れたのでしょう。

ちなみに、上の写真はカラーになっていますが、これまだ正確なカラー情報ではないはず。これから細かく色情報も解析するはずです。

冥王星って、地表が氷の層でおおわれているんですが、有機物が存在してると、表面が黄色や茶色に見えるそうなんです。つまり色情報を調べれば、有機物の有無がわかるってわけ。

じつは、冥王星には薄い大気が存在していて、その成分が宇宙から降り注ぐ高エネルギーの粒子に当たって、有機物が作られていると予想されています。さらに、氷の下には海があると考えられていて、そこでもアミノ酸などの有機物が作られていそうです。

太陽系には、ほかにも有機物を持つ惑星がたくさん存在していて、それらと冥王星を比較することで、さらに太陽系の進化と、生命の元となる有機物の進化についても、研究が進むと期待されているのです。

冥王星の正体
2015年07月17日(金) 00時00分00秒
テーマ:科学
ご存じのとおり、冥王星は太陽系の9番目の惑星として発見されました。

いまからちょうど100年前。1915年に、アメリカの天文学者、パーシバル・ローウェルが冥王星の存在を「予言」しました。

1846年に発見された海王星の動きが変なんです。理論予想と実際の観測が一致しない。なんでだろうと考えたローウェルは、もしかしたら海王星の外に、未発見の「惑星X」があって、その引力で軌道が乱されているんじゃなかろうかと。

ローウェル自身は、予言した翌年に亡くなったので惑星Xの発見はできませんでしたが、彼の研究を引き継いだクライド・トンボーが、1930年になって、ついに冥王星を発見したのでした。

アメリカ人が、はじめて惑星を発見した!

と、よろこんだウォルト・ディズニーは、ミッキーマウスの愛犬にプルートと名づけたほど。

で、2006年の1月。ついに冥王星を目指す探査機が打ち上げられます。その名はニューホライズンズ。

ニューホライズンズには、冥王星の発見者、トンボーの遺灰が乗ってるそうです。

マジですかー!

マジなんだそうです。発見者のトンボーに、冥王星を一番近くで見せてあげたいってことなんでしょうか。NASAも不気味……ゴホゴホ……粋なことをするもんですな。

さて、そうして打ち上げられたニューホライズンズ。

冥王星はご存じのとおり、すごーく遠いもんですから、そこまで飛んでいくのは、むっちゃ大変なのだ。

じつは、太陽系の外に飛んでいくのは、ながーい坂道を上がるようなモノなのです。太陽の重力に引っぱられますから。

そこでニューホライズンズは、かつてないほどの初速で打ち上げられました。同じ重さのハンマーも、ぼくが投げるのと、室伏選手が投げるのでは、選手のほうが遠くに飛ぶのと同じ。速い速度で打ち上げれば、それだけ遠くへ飛べるのです。

しかし……ニューホライズンズが、一路冥王星へ向かっている最中に、地球では一騒動が起こりました。

冥王星は惑星じゃないと、科学者たちが言いはじめたんです。もちろん、アメリカの科学者は反対したけど、体勢は変わらず、けっきょく冥王星は、惑星から準惑星へと格下げされちゃった。

もちろん、それには理由があるんです。

冥王星は、エッジワース・カイパーベルトと呼ばれる場所に位置しています。別名「彗星のふるさと」とも呼ばれるところ。ここにある彗星の卵は、氷が主成分。

じつは冥王星もそうなんです。巨大な氷の塊。

太陽系の惑星は、地球のような岩石でできたものと、岩石のコアのまわりに水素のガスをまとった、ガス惑星に二分されます。冥王星のように氷が主成分の惑星はない。

しかも、1992年以降、エッジワース・カイパーベルトを故郷にする天体が、つぎつぎと見つかっていて、いまでは1500個を超えました。

つまり冥王星は、エッジワース・カイパーベルトの天体の中で、かなり大きいモノ。ということができます。それを惑星と呼んでいいのかと。

そこで惑星の定義をしっかり決めようということになって、2006年の8月に、国際天文学連合は、惑星と呼ぶための三つの条件を決めました。

1、太陽の周りを公転している

2、自己の重力で、ほぼ球体となっている

3、軌道付近のほかの天体を一掃している

以上の三つ。

冥王星は、1と2は満たしていますけど、3に当てはまらない。さっき書いた通り、エッジワース・カイパーベルトには、冥王星のほかに、1500個もの天体が発見されているわけですから。

で、アメリカ人の大反対を押し切り、冥王星は準惑星と呼ばれることになりました。これが科学の宿命です。

がっ!

だからといって、冥王星を観測する意味が失われたわけじゃまったくなくて、「彗星のふるさと」にある天体に、どれだけ有機物があるか、どんな有機物があるかは、地球に生命が誕生した理由にも、大きな意味を持ちそうなんです。

だって、ぼくらを作る有機物の種は、もとは彗星が運んできたかもしれないのだから。

冥王星の研究は、もしかしたら生命誕生の謎を解くかもしれない。

そんな夢までかき立ててくれるのです。

そんな小難しいことを抜きにしても、きのうこのブログにも掲載した、あの鮮明な画像を見ただけで、大興奮ですけどね(笑)。

そして14日に撮った写真がこちら。


Credits: NASA/APL/SwRI

これは冥王星から7万キロほどの位置で撮影した画像だそうです。ボコボコしている凹凸は、氷の山。高さは3000メートルほどありそうだということです。

これ30億キロ彼方から送られてきたんですよ。信じられますか? すごすぎる。

ニューホライズンズが観測したデータは、これから16ヶ月かけて、地球に送信されるそうです。データの解析はまだまだ先ですが、どんな謎が解けて、どんな謎が増えるのか、いまから楽しみですねー。

ちなみに、ニューホライズンズの原子力電池は、2030年代まで持つそうなので、故障しない限り、今後も観測を続けるそうです。

冥王星を通り過ぎたので、ニューホライズンズは、いよいよエッジワース・カイパーベルトの深遠に飛び込んでいきます。

わりと近くに、観測可能な天体が二つあるそうです。方向が違うので、今年の秋までには、どちらへ向かうか決めるそうです。

エッジワース・カイパーベルトの天体を、間近で見るのは、もちろんはじめてなので、天文学者は興奮しているでしょうね。

いやー、それにしてもニューホライズンズはがんばりました。

彼とともに宇宙の旅を続けるトンボーも、満足していることでしょう。


この文章は、2015年7月16日と17日のブログに書いたモノを編集しました。



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