原子力ってなに? その1


 久しぶりのエッセイ。

 ブログを毎日更新している(奇跡だ!)せいか、エッセイのほうがとんとご無沙汰でした。

 でも、エッセイは文章にボリュームがある……というか、文字数を気にせず書けるので、より、突っ込んだ話ができるんですよね。とくに、科学解説のように、説明が必要な文章に向いてます。

 さらに、楽しみにしているので、たまには書いてねと、読者の方から、うれしいご要望もいただきまして、これからは、エッセイもたまに更新しなきゃと思う今日この頃。

 というわけで、さっそく、科学エッセイいってみましょう!

 さて。福島での原発事故は、ぼくが、ウダウダいう必要はないよね。どれだけ深刻な事故か、みなさんよーくご存じのはず。

 でも、いまこの時期に、久しぶりに書く科学エッセイで、原子物理学を避けるわけにはいかない。

 そこで!

 わたくしリサーチしてみました。原子について、みんないま、どんなことを知りたいと思っているのか。

 猛暑にもかかわらず、節電のためにエアコンを切った部屋で、さらに、我慢大会のごとくホットコーヒーを飲みながら、わたくし彼女に聞いてみました。

 原子力について、なにか知りたいことはございますか?

「えー? そうねえ……」

 と、彼女は少し考えてからいった。

「保安院の人の、女性問題かな」

 そんなこと知るか! もっとあるだろ、こー、自然科学的な疑問が!

「えー? じゃあねえ……」

 彼女はまた少し考えてから答えました。

「保安院の人って、カツラなのかしらね?」

 ああ、それはたぶん、カツラだと思うよ……って、ちがーう!

 ダメだ。この人は当てにならないので、自分で考えよう。

 失礼しました。こんなジョーダンが書けるのも、震災から四ヶ月が過ぎて、気持ちに余裕が出てきたから……といいたいところですが、松本なんとかという、おバカ大臣の辞任騒ぎなど見ていると、もー、バカ話でもしてなきゃやってらんねーやって気分ですよ。

 なんていってる場合じゃない!

 原発事故の処理は、まだこれからが正念場。そしてさらに、今後二十年、三十年と影響を調べ続けなければなりません。

 後出しジャンケンのようでいいにくいんだけど、ぼくは以前から原子力発電には反対でした。でもそれは、こんどのような大事故を心配していたからではなく、廃炉や、使用済みの核燃料を処理する方法が確立されていないからなんです。

 いや、正確には、処理する「方法」と「手順」は決められています。(あくまで、現時点での知見に基づいた手順ですが)

 とくに日本は、燃料を再処理して使っているので(いまは主に、イギリスとフランスに再処理してもらっている)、危険な高濃度放射性廃棄物が大量に出ます。

 それらを含めて、処理する「方法」はあっても、行う場所がないのです。再処理工場は、なんとかかんとか国民をだますようにして、とうとう作っちゃいましたが(現在、六ヶ所村で試験運転中です)、高濃度放射性廃棄物を最終的に処分する場所は決まっていません。

 どういうことなのか、流れを追いながら説明しましょう。

 まず、ウラン鉱山からウランを取り出して、それを原子炉で使える濃度まで濃縮します。この段階での放射線量は、それほど危険なレベルではありません。原子炉に入れる燃料棒を抱いて、一晩寝ても大丈夫なんていわれてます。(ただし、危険が低いという慢心が、東海村のJCO事故を起こしたともいえる)

 さて、この燃料は原子炉で核分裂を繰り返しながら、膨大なエネルギーを生み出します。その仕組みは、あとで詳しく書きますね。

 ここまでは、いいことずくめのように見えますね。ウランは価格が安定しているし、しかも、主要産出国は、政治的にも安定しています。

 しかも!

 使用済みの核燃料は、まだまだ使える燃料が残っているんですよ。それを再処理することで、燃料を有効に活用することができます。

 すばらしいじゃないですか。ただし、面倒なことを無視して、電力会社に都合のいいことだけ、並べ立てればの話だけどね。

 そう。原発だけでも十分すぎるほど厄介なのに、日本で行っている再処理を伴う原子力発電は、さらに気の遠くなるような面倒が、山盛り出てくるんです。

 使用済み核燃料を再処理すると、たしかに、また燃料が取り出せますが、当然ながらゴミも出ます。このとき出るゴミが、高濃度放射性廃棄物。高濃度ですぜ。どのくらい高濃度なんでしょうか?

 なんとかシーベルトだとか、なんとかベクレルといってもピンとこないと思うので、俗っぽくいいましょう。

 製造直後の高濃度放射性廃棄物の入った容器。その表面近くに人がいたとしましょう。すると、100%の人が死に至る放射線を、たった20秒で浴びることができます。

 20秒で死ぬという意味じゃないですよ。20秒間浴びたら、数日から数週間の間に、確実に死に至るという意味です。残念ですが、現代医学では治療方法はありません。即死のほうが楽かも。

 そんな危ない容器を、人間はどうしようというんでしょうか?

 まずは、約1.5メートルの厚さのコンクリートで遮蔽された場所に、30年から50年ほど保管することになっています。コンクリートは、放射線をよく遮断してくれますから、そのコンクリートのすぐ外側で生活はできないけど、管理者が被爆を気にせずに、仕事ができるくらいまで放射線量は弱まります。

 でも、長くて50年ですよ。

 高濃度放射性廃棄物を作ったとき生まれた子が、50歳になって、やっと一時保管が終わります。なんとか人間の管理できる時間レベルではありますが、非常に不安ですね。

 しかも、高濃度放射性廃棄物は、高い熱を持っているので、ただ、コンクリートの部屋の中に入れとけばいいというものではないのですよ。容器一本の発熱量は2300Wなんだそうで、表面温度は、うまく冷却できたと仮定しても、200度もある。

 これほど高温になる容器を、何十、何百本もまとめて、一つの施設に保管するのだから、熱の処理は大変ですよー。しかも、出る熱を排気しながら50年間も保管しなきゃいけないのです。きわめて堅牢で、自然災害はもちろん、テロなどの攻撃からも守られる原子炉並みのセキュリティを確保した施設を作らなければなりません。

 ところが……

 うちの隣の山に、そんな施設があったら困るわけで、どの自治体も、施設の建設に反対している。とはいえ、高濃度放射性廃棄物は、原子炉を動かせば、必ず発生するモノなのです。100万キロワットの原子炉を一年間運転すると、高濃度放射性廃棄物の容器が、約30本ほど発生します。

 いま現在は、約25,000本ほど、容器が溜まっている。これらは、けっきょく原子炉のある施設で保管もされています。たとえその原子炉が廃炉になっても、高濃度放射性廃棄物を移動できなかった場合は、最後の一本を保管した日から、50年間施設を維持しなければならないのです。

 これだけでも、もー、気が遠くなってきますけど、じつは、こんなの序の口なのだ。本当に大変なのは、ここからなんですよー。

 なんとか保管施設ができて、さらに、運よくなんの事故もなく50年貯蔵できたとしましょう。(事故がないなんて、あり得ないけどね)

 そうすると、容器の表面の放射線量が約1/9まで減少してます。だいぶ減っているように感じますが、なにせ最初の放射線量が強烈なので、ざっくりいって、50年経っても、まだ、3分浴びたら、100%致死量の放射線が出てることになりますな。

 しかし、この容器を、オーバーパックという厚い金属製の容器に封入すると、表面の放射線量は、約6万分の一にまで減少します。100%致死量の放射線を浴びるには、その金属容器抱いて、約140日生活しなきゃならないほど、放射線は弱くなる。

 ここまで放射線量が減少すると、作業はかなり楽です。その金属容器を抱っこしていても、人が自然から浴びる放射線量の1年分に達するまで、二週間ほどかかるので、ごく短時間の作業なら、大丈夫そうですね。

 また問題の発熱量も、約1/7くらいまで減っているはずなので、表面の温度は30度くらいでしょう。つまり温度も、短時間の作業なら問題ないレベルです。

 さて……

 なんとか、放射線量も温度も、我慢できるレベルになった高濃度放射性廃棄物。こいつを、いよいよ、本当に最終処分しなければなりません。

 どうしたらいいんでしょう?

 方法は、いくつか考えられます。ロケットで宇宙に捨てる、海に捨てる、南極かどこかの氷の下に埋める。

 でも、一番簡単なのは、地面に埋めることでしょう。

 そう。埋めちゃうんです。地下深くに。

 研究者の中には、人間が管理する建物で保管することを主張する人もいるみたいですが、とても正気とは思えない。だって、ここから先は、人間の時間尺度を、はるかに超越しちゃうんですよ。

 最初の50年は、半減期の短い放射線物質が出す放射線が支配的なので、比較的早く(それでも50年だけどね)、放射線が減少しましたけど、ここから先は、半減期の長い放射性物質が支配的になるので、人間の寿命を、はるかに超えた時間尺度で保管しなければならないのです。

 ハッキリ申し上げて、最初のウラン鉱山と同じレベルの放射線量になるには、10万年かかります。

 10万年ですよ、10万年。

 10万どころか、たった1万年前の人類は、なにをしてましたか?

 まだ、農業すら発明していなかった人類は、幸い、マンモスが絶滅する前なので、腰に蓑を巻いて、木で作った槍で、マンモスを追いかけてました。それがあなた、10万年前だなんて……人類はまだ、壁に壁画さえ描けない原始人でした。

 こんな、気の遠くなるような時間、われわれは、原子炉で作った放射性のゴミを、なんとかしなきゃいけないのです。

 できるでしょうか?

 東電や、原発推進の役人、そして原発推進の政治家は、いままで、「できる」といってました。

 そんなバカな。できるわけがない。

 おそらく、第一保管施設ですから、かなりの苦労と、かなりの金をかけて、なんとか50年維持できるかどうか微妙だけど、みんながんばろうねってレベルですよ。

 いうまでもないことですが、最終処分の埋め立て地をどこにするか決まっていません。これは日本だけでなく、アメリカでも、フランスでも、ドイツでも、決まっていません。

 さらに、ウランを燃やす大元の原子炉を廃炉にしたあとも、万の単位で封印しなければなりません。おそらく、原子炉の跡地で子供が遊んでも安全なレベルになるまでに、3万年くらいはかかるでしょう。

 3万年後。人類はまだ地球にいるんでしょうか?

 人類が絶滅しているかも知れない未来を心配する必要はないかもしれないけど、原子炉と、高濃度放射性廃棄物の処理というのは、そのくらい気の遠い話なんですよ。

 じつは、いままでの説明は、現時点において、人類が持ている技術と知識において考えられていることです。じっさいは、処理の運用を始めてから起こる、様々な問題、そして事故などを経験しながら、より高い技術を確立していくことになります。

 その過程で、より安全な方法が見つかる可能性は、もちろんゼロではありませんが……

 どうでしょう?

 あなたは、これを知ったら、あるいは知っていたら、原発に賛成できますか?

 ぼくは、どうしても賛成できなかった。

 なのに、なんで日本は原子力に、それも再処理にこだわるのでしょうか? 再処理をせずに、使用済み核燃料を捨ててしまえば、安全とはいわないけど、まだマシなのに……

 それは、日本のエネルギー政策に関わる議論から生まれました。日本はエネルギー資源が乏しいので、石油も天然ガスも、ほぼ100%を輸入に頼っている。わずかに、石炭が少しだけ取れる程度。

 もちろん、ウランも100%輸入です。

 でも、使用済み核燃料を再処理すれば、そこにウラン鉱山があるかのごとく、新しい燃料が取り出せる。たとえ、再処理にコストがかかっても、資源のない日本にとって、夢のような話じゃないかと、まあ、単純にいえば、そういう議論で、再処理が進められているのです。

 そこへ、こんどの震災で、大事故が起こってしまった。

 そのあとの経緯と現状は、みなさん、よくご存じの通りです。

 ところが、のど元過ぎれば熱さを忘れるなんて言葉の通り、もうすでに、原発推進の役人と政治家が、夜中の台所のゴキブリのように、ゴソゴソと不気味な音を立てながら、うごめきだしています。

 ぼくたち日本人は、節電(節約)という美徳には、お上の命令でも、喜んで従うのに、なぜ、原発には反対しないのでしょうか?

 運転中の原発に、安全が保証できないことは、こんどの震災で証明されました。停止中の原発も、安全ではありませんでした。また廃炉になった原発にも、安全はありません。そして、再処理は、問題をさらに深刻にします。再処理で出たゴミは、きわめて危険であり、それを安全に管理することなど、人類には不可能なのです。

 東電はよく、「絶対に安全」という言葉を使ってきました。そのうそが暴かれたいま、原発は、そのすべてが、「絶対に危険」なのだと、国民は肝に銘じなければならないと思うのです。

 とはいえ、いますぐ、日本の原発をすべて破棄するのは、経済的にもエネルギー政策的にも不可能でしょう。まずは再処理をやめるところからはじめるべきです。そして、原発自体も徐々に停止させ、十年か十五年くらいのスパンで、全廃できるような道筋を作るべきです。

 不可能でしょうか?

 いいえ。ドイツはやる気でいます。今後十五年間で、原発を全廃するのだそうです。彼らは不断の決意で実行するでしょう。なのに、日本にはできないと決めつけることの方が愚かです。

 というところで、原子力の秘密の、第一弾を書き終えましょう。

 今回は、「けっきょく原子力ってなに?」 という根本の疑問に答えていないので、それままた、次回以降、ゆっくり説明しましょう。

 では、次回をお楽しみにー!



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