変化しない進化


 寒いねえ〜。

 知り合いと立ち話してるんじゃあるまいし、暑いとか寒いとか書いてるようじゃダメダメな文章だなあ。でも寒いんだもん。自慢じゃないけど、寒いのは大の苦手なのだ。バンクーバー五輪なんて、見てるだけで凍えそうだ。ホントに自慢じゃないな。

 なんてヘタレの罰が当たったのか、つい先日、革の手袋を落としてしまった。コートのポケットに入れたつもりだったんだけど……どこを探してもない。落としたんだろうなあ。いまが一年で一番寒い時期なのに〜。

 致し方なく、新しいのを買いましたよ。さすがに高いのを買う気にはなれず、6千円の値札がついたのを、半額セールの3千円で買って来ました。落とした手袋は、革が伸びてヨレヨレになってたから、安く新しい手袋になってラッキーと思うことにしよう。それにしてもどこで落としたかな……ぶつぶつ。

 さて、近所のオバサンとの雑談ふう前ふりはこのくらいにして、そろそろ本題……と言いたいところだけど、その前にちょっとご報告。

 前回「リコールざんまい」というエッセイをアップしたよね。あれを書いた2月8日時点では、まだリコールに関するトヨタの会見が行われていなかった。ほぼ間違いなかろうと思える情報をもとに書いたのだけど、アップして二日後の2月10日に行われた会見で、トヨタの公式見解および、新しい事実も明らかにされたので、追記という形で情報をアップデートしておきました。

 追記の内容を、ここでも簡単に書いておくと、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)についても問題を抱えていたようだ。アメリカではトヨタへの批判が、いよいよ強くなっている。トヨタの品質への不信感は、まだまだ尾を引きそうだね。

 さて、ここからが本題。

 今回はですね、ジャストシステムの「JUST Suite 2010」のレビューをしてみようかなと。正確にはATOK 2010のレビューだな。なにせ、ATOK以外のソフトは、ほとんど使ってないから。

 えーとですね、2月5日に来たんですよ。悩み悩んでポチッと購入ボタンを押した「JUST Suite 2010」が。で、インストールしたわけです。それから十日ほど経ちまして、400字詰め原稿用紙に換算すると、200枚ほど文章を書いてみた。このくらい書くと、なんとなく見えてくるかなと。

 結論から申し上げると、ATOKの校正支援機能に助けられてきたわ〜って人は、バージョンアップする価値はあるかも。(ただしATOKだけのバージョンアップでよろしい)

 たとえば、いままでのATOKでも「お越しになられる」なんて打ち込むと、バカタレー! そりゃおまえ、二重敬語じゃスカポンタン! と怒られる。ひえーっ、すいませーん! と謝りながら、Shiftキーと一緒にEnterキーを押せば、「お越しになる」と自動で直してくれる。打ち直す必要はない。

 情けない話ですけどね、わたくし、この機能に何度助けられたことか……だってほら、召しませMoney!って、敬語が多いんだよ。ふだん敬語とか使わないからさ、つい変な言葉を書いちゃうんだよね。そのたびATOKさんに、バカモーン! とやられるわけ。トホホ。

図1 表示例
図1 本当はこんなふうに表示される(バカモーンとは怒られません)。


 さて、こんどのATOK 2010には、このお叱り機能……もとい校正支援機能に「重ね言葉」が加わった。デフォルトではオフなので、プロパティの校正支援(表現の洗練)で、重ね言葉チェックをオンにする。さっそくふざけて「頭痛が痛い」なんて打ち込むと、バカかおまえは! と怒ってくださる。ホントに頭痛が痛いなんて書くバカはいないだろうけど、ATOKの新機能説明にある用例には「あらかじめ予約しておく」なんて、いかにもうっかり書いちゃいそうなのが載っているよ。うわー、やべえ。書きそうじゃん。

 いやまあ、「あらかじめ予約」と書いたって、完全な間違いというわけではないけどさ。重ね言葉が冗長な印象を与えるのはたしかだ。こういうの指摘してもらえるのは、重ね重ね情けないけどありがたいのだ。

 あと、入力支援も強化された。英単語の綴りからカタカナに変換できるようになったんだ。たとえば、「Windows」と打ち込むと、ウィンドウズと変換してくれる。Internetも、インターネットと変換してくれる。

 え〜、そんなの便利? と思う人も多いだろうけど、ぼくには、わりとありがたい。「Windows」と打ち込んでから「ウィンドウズ」とカタカナに変換するのは、いままでのATOKでも単語登録していたぐらいなんだ。こうしておくと、英単語の「Windows」と書きたいときと、カタカナの「ウィンドウズ」と書きたいときで、打ち方を変えなくてすむ。よく使う英単語は、同じように片っ端から単語登録してあるのだ。

 いやマジな話、これだけ横文字が氾濫してると、ローマ字入力するカタカナと、英単語のスペルが頭の中でごっちゃになるんだよね。たとえば「ネット」なんて言葉は、つい「net」と打ち込んじゃうわけよ。いままでは単語登録しておかないと、「根t」なんて変な言葉にしかならなかったけど、ATOK 2010ならわざわざ単語登録しておかなくても、「ネット」と変換してくれて、ちょっとうれしいぞ。Macをマックに、Appleもアップルになる。いいね、これ。気に入った。

 それと、ちょっと感心したのが、すでに確定した文字も考慮して、次の文字を変換する機能だ。こんどのATOKはBayes理論を応用して、さらに変換精度を高めたそうだけど、まあ、そんな難しいことはともかく、ぼくが感心したのは、ごく簡単なワードだった。

 それは矢印記号だ。「→」こういうやつ。いまBlind Chordのゲーム用シナリオも平行して書いていて、その中でぼくはよく矢印記号を使う。たとえば、こんなふうに。

選択肢1

1.右へ行く → シナリオ通り
2.左へ行く → BAD ENDへ

2.を選んだ場合↓


 という感じで、選択肢でシナリオを分岐させるとき、それがわかりやすいように矢印記号をよく使うわけ。ここで注目していただきたいのが、「→」と「↓」が混在しているところ。ぼくはどちらの記号も「やじるし」という言葉で変換しているから、「→」を打ち込んだあとは、つぎも第一候補に「→」が出る。「↓」にしたいときは、スペースキーを余分に叩いて、「↓」に変換しなくてはいけない。

 ところが、ATOK 2010は、すでに確定したワードを考慮する。上の例の場合で言うと、「スペース」のあとに「やじるし」と打ち込んだ場合は、「→」が第一候補に、そして「場合」のあとに「やじるし」と打ち込んだ場合は、なんと「↓」が第一候補にくるんだよ。

 いやあ、これは進化だなと思ったね。小説にしろゲームのシナリオにしろ、打ち込んでるときは、ダダダダダッ! って感じで指の動きと思考がどんどん先へ進んでいくから、こういう、つまんない「引っかかり」のない変換をしてくれるのは大歓迎だ。

 そしてもう一つ。ユーザーインターフェースがほとんど変わっていないのがいい。これはATOKだけでなく一太郎にも言える。使い勝手が変わらないから手になじむ。そう感じる人は多いはずだ。変わらないことも悪いことじゃない(←こいつは、否定の連続だとATOKに怒られた)。それを財産と考えることだってできる。

 冒頭に書いたトヨタの話じゃないけど、8年も作って問題を少しずつ直してきた旧プリウスのシステムは、トヨタの財産だったはずなんだよね。それをコストダウンのために新しいシステムに変えて、大きな問題が起こってしまった。

 まあ、一般向けのオフィスソフトには、自動車みたいな命の危険はないからな。マイクロソフトのオフィスみたいに、ユーザーインターフェースをどーんと大きく変えるのも商売上は重要なことかもしれない。インターフェースが変われば、それを学習するためのコストが増える。パソコン教室とか儲かるかも。儲かる人がいることはいいことだ。

 変わらないことがいい。なーんて書いた舌の根も乾かぬうちになんだけど、変わることも必要だよね。金は天下の回りもの。株式市場だって流動性がなきゃ儲からない。儲からないってことはお金が回らないってことで、けっきょく経済は疲弊する。バランスが難しいですな。

 失礼。話が大きくなってきた。

 ATOKに関しては、使い勝手が変わらないことに賛成。いままでなじんだ操作が、そのまま通用する。思考の道具としては、思考を助けることより、むしろ思考を邪魔しないことが重要だから、変化しない進化には賛成なのだ。

 以上、簡単なレビューをお送りしました。Suiteをお買いになる必要はまったくないし、一太郎 2009をお持ちの方なら、一太郎 2010にする必要すら感じませんが、このエッセイをお読みになって、ビビッと琴線に触れた方は、ATOKだけはバージョンアップを検討してもいいと思いますよ〜。

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