これ以上、なにが必要だというのか?


 お? 今回のエッセイは、ガリレオ先生の続きじゃないのか? うん。ちょっと科学エッセイはお休み。

 ここ最近、召しませMoney!の次回作「ヘレネの涙」を執筆しているんだけど、いやはや、この作品はやっぱり難物ですな。なかなか筆が進まない。しばらくBlind Chordを書いていたせいで、頭の中が、まだ召しませMoney!の世界に戻りきってないのも原因だろうね。

 で、文字がなかなか入力されない画面を見ながらふと思った。

 ぼくが小説を書きはじめたころに比べて、パソコンの処理速度は劇的に速くなった。気分が乗ると、ぼくはかなりのスピードでキーボードを叩くから、むかしのパソコンは指の動きについてこれなかったんだ。いやホントだって。一通り打ち終わっても、画面上では、まだカタカタと文字が表示されている最中だったりするんだ。なに、もたもたしてんだよって感じ。

 もちろん、いまのパソコンでそんなことは起こらない。しかも、執筆に使っているソフトは、選びに選び抜いたWZエディター。エディターソフトは、そもそもプログラミング用に開発されたモノだけど、いまや文章執筆に特化した道具といっても差し支えないくらい、文筆のことを意識して作られている。

 そんなエディタソフトの中で、WZエディターは、とくにお気に入りのソフトなんだけど、コンピュータの進化も、いいことばかりじゃない。新しいOSでは、WZエディターが動かなかったんだ。犯人はそう、かの悪名高き、Windows Vistaだよ、Vista。以前のWindows XPより、確実に進化している部分はあるし(検索の速さは感動的だよ)、デザインもよくなったから、ぼくは悪くないOSだと思うけど、ソフトウエアの互換性で、Vistaに変えられない人もたくさんいるだろうね。

 WZエディターが動かないんだから、ぼくもOSを変えられない人の一人だった。それ以前に、OSのセットアップは大嫌いなのだ。ところが、変えざるを得ない状況に追い込まれた。その辺の顛末は「Windows Vistaの誘惑」と題したエッセイで、詳しく報告している。

 で、しばらくWZエディターを使えない日々を過ごしていたけど、やっとバージョンアップして、Vistaに対応してくれた。もちろんすぐに(ベータテストのときから)インストールしたとも! なにせ、WZエディターのアウトライン機能は、一度その恩恵に浴すると手放せないのだ。召しませのように、長い長い小説では、プロットの管理が大変だけど、アウトライン機能を使えば、一目瞭然。自動的に本の「目次」を作ってくれるようなモノだ。さらに新しくなったWZエディターは、画面デザインも気に入っている。ルックスの良さも重要だよね。

 ちょっと残念なのは、やはりお気に入りだった日本語入力システムのJapanistもVistaでは使えなくなったことかな。開発元の富士通は、Japanist2003なら、Vistaで使えるといってるけど、ぼくのパソコンでは、なぜかうまく動かなかった(インストールはできるんだけど、連携辞書の挙動が不安定なのだ)。

 それで入力システムをATOKに変えた。正確には、ヴァージョンアップの止まったJapanistに不安を覚えて、Vistaにする前から使い始めたんだけど、変えた直後は、変換効率も使い勝手も、なにもかもJapanistに劣っていると思ったもんだよ。ちくしょう、使いにくいなと。

 でもまあ、いろいろカスタマイズをした結果、いまではJapanistより、いいソフトだと思えるようになってきた。特筆すべきは、入力中に間違いを指摘してくれることだ。本則に外れていたり、助詞の連続した文を入力しても怒るんだぜ。小姑みたいなソフトだけど助かる。さらに、別売の各種専門辞書を購入すると、その辞書と連携して、ボキャブラリーを増やしてくれる。その意味で、類義語辞典はお勧めだ。

 ソフトだけじゃない。ハードウエアに目を向けると、いくつも試して、やっと見つけた打ちやすいキーボードもすばらしい。ダイヤテックという小さな会社が作っている、FILCOブランドのメカニカルキーボードは、かなりのお気に入りなんだ。最初は茶軸を使ってみたけど、いまは黒軸。ぼくの打鍵力だと、黒軸の方が打ちやすい。

 さあ、ぼくはいま、十分に速いパソコンを持っている。広い画面に、お気に入りのエディターソフトを立ち上げ、指に吸い付くようなキーボードが軽やかに音を立て、優秀な日本語入力システムが、ぼくの思考を文字に変換していく。

 これ以上、なにが必要だというのか?

 いうまでもないことだけど、パソコンは常時、光ファイバーでネットに繋がり、いつでもWebから必要な情報を検索できる。動画のストリーミング再生もスムーズだ。しかも、25.5インチの液晶モニターは、エディターと、ブラウザと、辞書ソフトを開いておいても十分な広さがあるのだ。

 なんという贅沢!

 12インチだか、13インチだか忘れたが、モノクロ液晶の、信じられないくらい遅かったMacintoshのノートパソコンで(Macintoshもパソコンですよ)、ちまちま小説を書きはじめたころとは、雲泥の差だ。

 なのに、ああ、それなのに……なんで書けないんでしょうね?

 小説を書くのに、パソコンとソフトウエアの能力は関係ないんだろうか? そんなバカな。車を運転するとき、カローラよりベンツの方が快適に目的地まで行けそうじゃないか(いや、ベンツを運転したことはないが)。執筆だって同じだろ? 道具が便利で快適な方がいいに決まっている。

 いや……たぶん違う。物語を紡ぐのに道具は必要ないのだ。古代の吟遊詩人は、紙とペンさえ使わなかった。彼らに必要だったのは、魂の解放だけだ。

 よしよし、いいぞ。魂の解放ときたもんだ。うひひ。なんか頭の片隅が、ムズムズと文学的な気分になってきましたぜ、奥さん。

 おお! 見よ、あの冷たく輝く月の光を! 月の光は、だれにも等しく降り注ぐ。機械文明という名の檻に捕らわれた、この汚れた魂をも解放してくれるのだ!

 さあ行こう! ゴミ溜めのような東京シティの片隅から、やっぱりゴミ溜めみたいな、フランスはパリの街角へ、魂の炎を飛ばそう!

 魂の炎? それじゃあ、墓場に飛んでる火の玉みたいだな。ああイカン。こないだDVDで見た「ゲゲゲの鬼太郎、千年呪い歌」を思い出しちゃった。

 じゃなくて!

 召しませMoney!3の舞台はパリなのだ。だから気分はパリなのだ。シャンゼリゼ通りなのだ。エッフェル塔なのだ。って、なにげに発想が観光地ばかりだな(苦笑)。えーと、パリは今何時だ? 気温は? 天気は?

 ああ、やっぱりWebは便利だな。ボキャブラリの少なさに詰まったら、ATOKの類義語辞典が助けてくれるし、WZエディターのアウトライン機能が、小説のプロットを管理してくれて……あれ?

 いやまあ、やっぱり道具も大事だよね(苦笑)。ホント助かってます。というわけで、召しませMoney!の次回作は、夏ごろの公開を目指して、がんばります!

 以上、筆が進まない愚痴おわり。すいませんね、変なの書いちゃって(汗)。


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