サイトマスターの逆襲


 クリスマスが終わった。死ななかった。よかった……と、思ったのも束の間。きのうの夜中(日付が変わっていたから、今日なんだが)に帰宅してから、どうも体調がよろしくない。寒けがする。軽い吐き気もある。

 やな予感〜

 いや、予感もなにも、こりゃ風邪だと思ったのだが、鼻水が出るわけでもなく、喉が痛いわけでもなかった。謎の病気か? とにかく、そそくさとベッドに入り、そのまま気絶するように眠ったのだが、朝方、ひどい寝汗で目が覚めた。悪寒もさらにひどくなっている。それだけではない。さらにもうひとつ症状が加わった。汚い話で恐縮だけど、お腹がピーピーなのだ。

 お腹に来たか〜

 汗で濡れたままではイカンので、寝間着を変えて、ふたたびダウン。病院は、午後の診療が3時からだから、それまで寝ていようと思ったのだが、2時ごろにはだいぶ体調がよくなってきた。まだだるいのだが、寝込むほどじゃない。でもまあ、念のため病院には行くことにした。年末年始、寝込むわけには行かないし、その前に、明後日は今年最後の忘年会に出席しなければならないのだ。ホント休む間もないね。

「今日はどうしました?」
 と、先生。
「きのうから寒けがして、ちょっと気持ち悪くて、お腹がピーピーなんです」
「どれ、口開けて」
 先生は、懐中電灯でぼくの口の中を覗き込んだあと、今度はお腹の辺りを押したりさすったりした。
「こりゃまあ、感冒性胃腸炎でしょうな」
「やっぱ、そうですか」
「この時期は、みんなやるんだよ」
「薬でバシッと治してくださいよ」
「無茶言いなさんな。粥でも食って寝てなさい」
「ガックリ」

 というような会話をエンジョイしたあと、薬局で下痢止めと整腸剤と解熱剤を処方してもらって、そのあと先生の忠告どおり、コンビニでレトルトの粥を買って帰宅。ありがたいことに、少し食欲も出てきた。思えば、クリスマスが終わるまで元気だったのは、神のご加護に違いない。

 と、半分本気の冗談はおいといて、だいぶ体調もよろしくなってきたので、がんばってエッセイを書くことにしよう。

 ぼくの事務所(兼自宅)には、毎月女性向けの雑誌が送られてくる。もちろん、女性の心理を研究するために、毎月講読している……わけではなくて(笑)、その雑誌で仕事をしているから、掲載誌として送られてくるのだ。

 で、今月も例に洩れず送られてきたのだが、その雑誌をペラペラめくっていたら、巻末近くに星占いのページがあることに、はじめて気がついた。ふと、ぼくの星座である魚座を見ると……

 ハードな運気。忙しさにかまけて、大事なことを忘れたり後回しにしたりしそう。

 当たってるよ(苦笑)。当たっているとも。なんてったって、魚座はロマンチストで心優しい性格らしいから、全世界の魚座の男たちは、イルミネーションに輝く街で、日夜、女性の幸せのために努力しているのに違いない。

 そういえば今度のクリスマスでは、ほほ笑ましい(?)エピソードがある。彼女と、2、3年前のクリスマスのことを話していたら、ちょっとした出来事を思い出したんだ。大したことじゃないので、彼女は、そのことをすっかり忘れていて、「それって、わたしとぉ〜?」って、疑惑のまなざしでぼくを見るではないか。一瞬ギクッとしたけど、意識が低迷していないとき、ぼくはそういう間違いをほとんど犯さないので(ゼロではないが)、彼女と一緒だったのは間違いなかった。だからぼくは、自信を持って話を続けた。すると、彼女も思い出してくれて、ぼくの疑惑は晴れたのだけど……

 改めて思ったね。彼女の前で、昔の話をしないほうが無難だなと。全世界のロマンチストで心優しい魚座の男性諸君。言動には充分に気をつけよう……なんて、釈迦に説法か。きっとみんな同じ苦労をしているよな。おーい、魚座の諸君! 死なない程度にがんばろうぜ!

 あれ? なんの話だっけ?

 ああそうだ。サイトマスターの逆襲というエッセイを書くんだった。忙しくて、つい忘れちゃうよなあ。まだ微熱もあるしさあ〜

 というわけで、リアルでもネットでも、各方面のみなさまに不義理を申し上げている今日この頃なのだけど、今年のうちに解決しなければならない重大な問題があるので、星占いの先生に指摘されたとおり、忘れる前に片づけてしまいたい。

 魚座の男たちは、この時期、年末年始のデートプランを練る以上に(クリスマスが終わったばかりだというのに!)、なにか重大なことがあるのかと思うだろうが、あるのだ、重大な問題が。

 それは前回のエッセイのタイトルだ。「サイトマスターの憂鬱」と題したエッセイが、いまだに新作の棚にあるのは、大問題ではないか。2005年を「憂鬱」なままで終わっていいのか。いや、よくない。だから「逆襲」というエッセイを書くことにした。

 では行くぞ。魚座じゃなくたって、みなさんも忙しいだろうし、風邪を引いてる人もいるだろうけど、大事なことは後回しにして、このエッセイを読んでください。

 まず、なぜ憂鬱だったか思い出していただきたい。それは業者の宣伝書き込みが、嵐のごとく、わが掲示板を吹き荒れたからだった。うちの雑談掲示板は、1ページに10件ほどスレッドが表示されるのだけど、一時期はそのすべてが、たった半日のうちに宣伝で埋めつくされたこともあるほどだった。

 さすがに、なんとかしなくてはと、思い腰を上げたのが11月の下旬。対策として、掲示板を動かすプログラム(以下CGIと記す)を、宣伝書き込みを防止できる改造版に変更してみたのだ。そして数日運用してみると……

 嘘のように宣伝がピタリと止まった。まるで、耐性菌のない時代に、ペニシリンを打ったみたいだと思ったね。

 いやあ、うれしかった。なにがうれしいって、ぼくの使った改造CGIは、投稿を拒否した書き込みを記録しておく機能があるのだけど、じゃんじゃん釣れるんだよ。まさに入れ食い状態。当初は、外国からの書き込みだけ引っかかるかと思ったけど、じつは日本の日本語による宣伝も、ほぼ自動書き込みソフトを使っているらしく、それらも全部防止できていた。

 やったぜ!

 という喜びのモチベーションが消えないうちに、すべての掲示板を改造版に変更し、なおかつ掲示板のURLも変更した。さらに、みなさんには申し訳ないと思いつつ、今後もURLを容易に変更できるよう(業者によるURL収集対策の意味も含め)、フレームや、扉ページから掲示板への直リンクを削除した。

 以上の処置を配したのが、今月の1日だ。それから1ヶ月経過したいま、宣伝書き込みは1件もない。

 すばらしい!

 もっとも、それは改造CGIの効果ではない。というのは、さっき改造CGIには、排除した書き込みを記録しておく機能があるといったけど、それを見ると、宣伝書き込みは1件も記録されていない。つまり「宣伝書き込み」そのものがなかったのだ。

 その理由は、URLを変更したからに他ならない。彼らのほとんどが、自動書き込みソフトを使っているとわかった時点で、CGIを変更しなくても、URLを変えるだけで、かなりの効果があるとは想像できた。

 それでもぼくは、すべての掲示板CGIを変えた。雑談掲示板はログをそのまま移行できたが、ゲストブックと感想掲示板は、まったく新しくしなければならないのにだ。

 万全を期したかったんだよ。やるならいましかない。掲示板を変えるというのは、それなりにインパクトのあることなので、キッカケが必要なんだ。変更したURLは、いつかまた収拾され、彼らの自動書き込みソフトに組み込まれるだろう。そのときは、改造CGIが、宣伝書き込みを未然に防いでくれるはずだ。

 というわけで、いまに至っている。宣伝書き込みがないというのは、なんと平和なんだろうか。昔はこれが当たり前だったのに、平和というのは、失われてはじめて実感できるものなのだなあ。大げさだけど(苦笑)。

 でも……

 うちの掲示板が平和になったからと言って、問題はなにも解決していない。いまも宣伝書き込みに悩んでいるサイトマスターはたくさんいるはずだ。それだけじゃないよ。ブログでもスパムが問題になっているよね。ブログ記事とは無関係なトラックバックで、アダルト系や出会い系サイトはもちろん、ワンクリック詐欺のサイトに誘導されちゃうんだってさ。アダルト系や出会い系サイトはまだしも、ワンクリック詐欺は笑い事じゃない。

 フィルタリングエンジンを開発している、ネットスターという会社の調査によると、ブログユーザーのうち、42パーセントがトラックバックスパムや、スパムコメントを受けたことがあるらしい。さらに、そのうちの13パーセントは、毎日スパムを受けているんだ。そのせいで、全体の36パーセントが、トラックパックの受け付けを中止した経験があるんだとか。中止したくなるお気持ち、お察しいたします。ホントに。

 うちの掲示板の惨状をみただけでも、構造的に狙われやすいブログが大変なことになっているのは、容易に予想が出来ることだけど、それにしたってすごいよ。ブログを運営しているニフティでは、スパムによるトラフィックで、数分間アクセスが出来なくなったんだってさ。すごくない、それって? まあ、考えてみれば、世界中を駆けめぐる電子メールの、7割近くはスパムだというんだから、ブログにトラフィックかけるくらい、スパム業者はあくびをしながら出来るんだろうけどさ。

 まったくなあ……スパム業者は、どこまでやれば気が済むんだろうか。

 でもね。そうは言っても、ぼくは、宣伝書き込みをしている業者の業務が、合法的なものであるならば、彼らを全面的に否定するつもりはないんだ。

 自分の掲示板が、とりあえず平和を取り戻して、やや気持ちに余裕が出来たから言えることかもしれないけど、たとえば、アダルトサイトは、とくに危険なものじゃないよね。見ている分には、金をだまし取られるわけでも、エイズに感染するわけでもない。深みにハマったらヤバイだろうけど、それは個人の責任だ。風俗に溺れる男に、ぼくは同情しない。そうでなくても男には同情しない(笑)。

 なんて書いてると、世の中のお母さんに怒られちゃうかな。そりゃぼくだって、淫らな情報から子供を守らなきゃいけないと思うよ。子供たちは、いつか親の目を盗んで、バカなことをやらかすはずだけど(ぼくはやらかした)、それを放任しろとも言わない。

 でもさ、人間の(この場合は「男の」と言うべきかもしれないが)欲望を消すことができないのなら、彼らの存在もまた消すことはできないだろう。だとしたら、うまく共存するしかない。誤解してほしくないのだけど、彼らの「客」になれって言ってるんじゃないよ。彼らの「カモ」にならないように気をつけようと言いたいんだ。冷やかし程度にアダルトサイトを見るぐらいにしておこうよ。彼らは、いつでも手の届くところで、手ぐすね引いて、ぼくらを待ち構えているのだからね。

 問題は出会い系サイトなどの非合法な組織だ。やってることは、いわゆる援助交際というヤツなんだろうと思う。こいつは明らかに非合法。売春だもんな。成人した女性が、自分の意思で、その道のプロになるなら話は別だけど、中には中学生の女の子もいるって話じゃないか。マジかよ。中学生だぜ。そういうサイトに行く人は(間違って迷い込んだのでなければ)、アダルトサイトを見るのとは、心構えが(苦笑)違うだろう。要するに客になりたいわけだ。業者にとっては、カモという名の客に。中学生は論外にしても、ぼくなんか、女子高生だって、相手にしたいとは思わないけどなあ。世の中には変態野郎が多くて困るぜ。だいたい、最近の軟弱な男どもは(ロマンチストで心優しい魚座の男たちは例外として)、物の道理がわかった、大人の女性を落とすのが、どれほど楽しいことかわかってない。

 ねえ。そう思いませんか、女性のみなさん? え? 思わない? そうか、それでぼくも、たいていは失敗するのか(笑)。

 話は少しそれるけど、最近コンプライアンスという言葉をよく耳にするよね。日本語にすると、法令遵守という意味だ。企業は、金儲けのために存在しているわけだけど、そのためになにをやってもいいわけじゃない。金儲けは、法律で許される範囲内でやるのは当然の話だ。そんなことを、いまさら「コンプライアンス」なんて気取った言葉で表現する必要はない。

 はずなんだけど……どうやら現実はそうじゃないようだ。どれだけの企業が、コンプライアンスを本気で考えているか極めて疑わしいよね。

 たとえば、狂牛病対策を悪用して、牛肉の産地を偽装していた雪印食品の不正は、記憶を陳腐化させるにはまだ早すぎる。ほかの食品会社も似たようなことをやっていたが、とくに雪印食品は親会社の食中毒事件とも重なって、会社の存続が不可能になった。倒産して終わり。泣いたのは罪のない従業員と、パートさんたちばかり。

 存続が不可能といえば、カネボウもそうだね。粉飾決済を繰り返してきたツケは、会社の分割縮小、そしてライバル会社に吸収される形で一応の決着を見た。

 まだまだあるぜ。明治安田生命を筆頭に、ほとんどの保険金会社は、支払うべき保険金を支払っていなかった。こいつも大問題だ。逮捕者は出ていないが、ぼくは明確に「犯罪」だと思う。支払われない保険に、保険金を払い続けるのに、なんの意味がある?

 三井住友銀行は、顧客に不利な金利の商品を無理やり売りつけていた。当然、彼らの不正な商売に異を唱えた顧客もいたらしいが、融資の凍結をちらつかされて、やむなく、その商品を購入した顧客も少なくなかったという。この件も逮捕者は出ていないが、彼らの行為を、恐喝と表現しても間違いじゃないと思う。

 三井で思い出した。三井物産の子会社は、ディーゼル車の排ガスを浄化する排気微粒子除去装置の性能を偽って申告していた。銀行でも思い出した。UFJ銀行は、金融庁の検査妨害で3人が逮捕された。

 そうそう。西武鉄道も不正をやらかしてたよな。彼らは、有価証券の報告書を虚偽していた。おかげで、税金なんか払うもんかと公言していた堤氏の影響力がなくなったのは喜ばしいことかもしれない。

 東京電力も、原子力発電所の点検データを捏造していた。ぼくは、原子力の利用に必ずしも反対というわけではないんだが(ないに越したことはないけど)、正気を疑う連中に管理してほしくない。東京電力は、ジェー・シー・オーが臨界事故を起こしたあと(東海村で起こった大事故だよ)、自社のホームページで「原子力発電所の安全管理の再徹底」なんて文章を載せていたのに、あれはなんだったの? みんな嘘だったの? 嘘だったんだろうね。

 こうして思い出すと、どんどん深刻な例が出てくる。六本木ヒルズの回転ドアで、幼い子供が亡くなった事故は、本当に痛ましかった。あの事故は、安全管理の問題であり、不正行為とは言えないけど、本来はアルミで「軽く」作るべきモノを、見た目の高級感を優先して、ステンレスで作ってしまったところに、問題の本質がある。回転ドアが多く普及しているオランダでは、かなり前に同様の事故があって、安全性を向上させるための改良が進んでいた。そう。オランダ人が選択した方法は「アルミ」を使って、ドアを軽くすることだったんだ。ここで物理の授業をするつもりはないけど、質量が小さいほうが、その動きを止めるためのエネルギーも少なくてすむし、同じエネルギーなら、質量が大きいものより、迅速に停止させられる。言うまでもなく、ステンレスは、アルミに比べて質量が格段に大きい。ステンレスの回転ドアは、簡単に止まらないのだ。

 六本木ヒルズの回転ドアを作った三和タジマは、その「改良された」回転ドアを知っていたどころか、そもそも、その改良された回転ドアを出発点(技術導入)にして、安全性を無視したモノに改悪していったんだ。なぜオランダのメーカーが、見た目が安っぽく見えるアルミで、回転ドアを作っていたのか。三和タジマの技術者が、その理由を知らなかったと主張しても、ぼくは信じない。つまり過失ではないと思う。起こるべくして(欧米では起こっていたのだ)起こった事故だった。

 もっとひどいのは、三菱ふそうトラック・バスだろう。彼らは、欠陥部品で作ったトラックが人の命を奪うまで、自分たちのトラックに欠陥がある事実をひた隠しにしてきた。覚えているよね? 横浜市で、子供を二人連れたお母さんが死亡した事故。

 三菱ふそうトラックは、リコールを届け出ると費用がかかるという下らない理由で(ブランドも傷つくと思ったらしい)、お母さんを殺害したのだと言われても、返す言葉があるまい。その死亡事故が起こる前に、同じ原因による事故が33件も起きていたのだから。

 不幸中の幸い子供たちは助かった。しかし、社長がどんなに頭を下げたって、亡くなったお母さんは帰ってこない。なにもかもが遅すぎた。それでも唯一の救いは、この事件をキッカケに、彼らが誠実な会社に生まれ変わる可能性があることだ。事実彼らは、不正を認めてから(渋々だったが)コンプライアンスの推進に取り組むと称し、新聞の一面広告で、自分たちは心を入れ替えたと訴えた。その言葉を信じる理由はなにもない。だって、疑惑が発覚したあと、もみ消しに奔走していた企業の言葉を信じられるかい? 横浜地検ががんばらなきゃ、この事件は、本当にもみ消されていたかもしれないんだぜ。

 それでもぼくは信じたいと思った。更生してほしいと願った。なぜなら、検察の捜査で、現場レベルには、誠実な人も多くいることがわかったからだ。希望はある。

 ところが……

 つい最近、三菱ふそうトラックの子会社であるパブコという会社が、トラックを不正に改造していた事実が明るみに出た。なんと車両重量を誤魔化していたんだ。車重が重いと、法令で定められた荷物の積載量が減るし、重い車を安全に停車させるためには、より強力なブレーキを使わなければならない。それは、彼らの営業活動にとって不愉快な事態だ。だから彼らは、トラックの重量を「軽く」見せかけていた。まだ不正の全容は解明されていないけど、明らかに組織的な犯罪だろう。

 今回は、三菱ふそうトラックではなく、子会社のやったことだが、それでも三菱ふそうトラックの名が出ただけで、多くの国民が「また、あいつらか」と、眉をひそめたはずだ。それを狙って名を出した報道機関の姿勢にも疑問を感じるが、まあ、信用を失うというのはそういうことなんだ。今後も、三菱ふそうトラックは、目の敵にされるだろう。そもそも、総本山とも言える、元親会社の三菱自動車が、リコール隠しのオーソリティーだったのだから始末が悪い。ひどいもんだぜえ、当時の三菱自動車がやった証拠隠滅作戦は。知れば知るほど、アル・カポネも真っ青。その三菱自動車こそ、心を入れ替えたと信じたいけど、どうなんだろう。大丈夫だろうか。

 そして、最近発覚した不正行為の目玉は、なんといっても、マンションやホテルの耐震強度偽装事件だ。記憶に新しいどころか、現在進行形の大事件なので、ここでぼくが詳しく書く必要はないよね。こちらも不正の根は思った以上に深いようだ。問題の建築士がクライアントからどんな圧力を受けて不正を働いたのか、まだ事実関係は明らかではないけど、「弱い自分がいた」と証言した言葉に嘘はないだろう。彼に同情するつもりはないが、心情は理解できる。

 同情も理解もできないのが、建築主のヒューザーだ。彼らは、瑕疵責任を認めつつも、自分たちも被害者だと主張していた。その姿勢は責任逃れにしか見えなかったが、偽装の事実を本当に知らなかったのなら、彼らの主張も理解はできる。

 ところが、不正が明るみに出たあとも、耐震強度が偽装されていたマンションを売っていたらしい。それが事実だとすれば、立派な詐欺だ。過激な言葉を使うなら、殺人幇助にすら近い。これから、どんどん長くなりそうな犯罪者リストに、彼らの名が登録される日も近いのかもしれない。

 この事件に関しては、全容解明を進めるのはもちろんだけど、その前に本当の被害者である、マンションの購入者を救済しないといけない。おそらく、ヒューザーをはじめとする建築主に、その能力はないだろう。じゃあ、だれが金を出す? なんて悠長なことを言っている場合じゃないよ。最優先すべきは人命なのだ。国と自治体は、一刻も早く被害者を完全に救済するための特別予算を組むべきだ。使った税金を、誰から回収するかは、あとで考えればいい。あくまでもぼくの個人的な意見だけど、最悪の場合、国民の負担になっても仕方ないとさえ思える。国の責任も軽くはないのだから。

 もちろん、特別予算を組むには、法律の壁もあるだろう。むやみに税金を使ってほしくもない。それでも、あえてもう一度言うよ。最優先すべきは人命なんだ。そのことを忘れなければ、取るべき道は決まっているじゃないか。

 どうよ。ひどいもんじゃないですか。思いつくまま、明るみになった例を挙げただけでも、頭が痛くなるほどキリがない。これらはみな、表向き「まっとうな」会社であった企業ばかりだ。となれば、いま現在も、潜在的に犯罪を犯し続けている企業が、あとどれほどあることか……考えると恐ろしくないか? トヨタは大丈夫か? ソニーは誠実な会社か? キヤノンは? 松下電器は? あなたの会社は大丈夫?

 いや、こう問うべきかもな。あなた自身は大丈夫ですか? と。

 なんて、偉そうに書いているぼく自身はどうだろう。いうまでもなく、ぼくは聖人君子じゃない。どこにでもいる平凡な男だ。だから、ぼくの倫理観なんて高が知れてるが、それでも、仕事にはプライドがある。

 もう、5年以上前の話なんだけど、有名ではないが、そこそこ名のある化粧品会社(ごめん。具体名は勘弁してほしい)の販売方法が、ねずみ講とどこが違うのか理解できず、宣伝写真の撮影を断ったんだ。

 そういうこと気にしないフォトグラファーが多いけど、ぼくはダメだった。手に入ったかもしれないギャラを思うと、正直言って残念だが、それより痛かったのは、この件をキッカケに、実際の広告を担当していた広告代理店と切れてしまったことだった。担当者とケンカしたわけじゃない。彼と親しくはなかったが、関係が悪いわけでもなかった。あとから聞いた話だけど、会社として、あのフォトグラファーは使うなということになったのだそうだ。ぼくは彼らにとって口うるさいだけでなく、ギャラも高かったらしい。

 まあいいさ。どうせ零細な広告会社だ。仕事はほかにもある。と、精一杯ハードボイルドを気取ってみたけど、当時、その広告代理店との取引は、ぼくの収入の2割近かったから、失われた収入を思って、心の中で泣いた。いや、嘘は言うまい。じつは友人に愚痴りまくった(苦笑)。あのとき、ぼくの愚痴を聞いてくれた友人に、心からお礼を申し述べたい。これからもなにかあったら聞いてね(笑)。

 問題の化粧品会社が、法律を破っていたか、ぼくにはわからない。限りなく黒に見えたけど、黒に近いグレーというのが、本当のところかもしれない。化粧品業界で、ねずみ講まがいの販売方法があるのは、よく聞く話だ。それでも、自分の倫理観に照らして「黒」なら「黒」なのだ。

 ちなみに、この話にはささやかなオチがある。その広告代理店の担当者は、半年後ぐらいして会社を辞め、べつの広告代理店に入って、ぼくに仕事を回してくれた。本当に彼とは親しいわけじゃなかったから、これには驚いた。彼は彼なりに、問題の化粧品会社には疑問を感じていて、その仕事をキッパリ断ったぼくのことを気にしてくれていたそうだ。ありがたいことだね。そのとき、彼とはじめて酒を飲んで、当時のことを苦笑まじりに語り合い、不愉快な思い出が笑い話に変わった。あのとき、断って本当によかった。

 それがオチ? いや違う。ぼくを切った広告代理店は倒産して、いまはもうない。ざまみろ。いい気味だ。あーら、ごめんなさい。わたくしとしたことが、言葉が悪かったですわね。おほほ。

 失礼。話が大幅にズレた。こんなこと書くつもりはなかったのに、つい筆が走っちゃったよ。それだけ企業の不祥事が目に余るということだね。なるほど、コンプライアンスなんて言葉も必要なわけだ。要するに標語みたいなモノなんだね。赤信号、みんなで渡れば怖くない……違うって。赤信号は止まりましょうよ、できれば黄色のうちに(苦笑)。

 さて。なんの趣旨でこのエッセイを書き始めたのか、ぼく自身わからなくなってきたけど、いいかげん軌道を修正しよう。

 電子メールやブログ、そして掲示板にスパムを発信する業者は、もちろんコンプライアンスからほど遠いところに存在している。というと、不正を働く企業と似たりよったりとも思えるけど、彼らはもっと、なんというか動物的だ。

 例えて言うなら、イナゴの大量発生だろうか。イナゴが大量発生する理由はいろいろあるだろうけど、人類が農業をはじめたのが大きな理由であるはずだよね。自然の中で細々と暮らしていた彼らは、ある日、無限とも思える大量の食料が目の前にあるのに気づいた。人間はそれを農場とか畑とか呼ぶけど、イナゴにしてみれば、ただの食べ物だから、ぼくがイナゴだとしても食べたくなるだろう。だから、イナゴに罪はない。自然の摂理だ。

 スパムも、発生メカニズムはイナゴに似ているような気がする。彼らはある日、ネットという世界に、無限とも思えるほどの宣伝場所を見つけたのだ。だから、そこに一気に群がった。彼らに罪がないとは言わないが、自然の摂理と言えなくもない。

 極論を言うなら、市場が動く原理そのものが動物的だよね。理性ではなく「欲」で動くのが市場経済だ。ぼくは、来年退任するFRB議長の、アラン・グリーンスパン同様、市場の有用性を信じているから、そのことを批判するつもりもないけど。

 しかしだ。加熱した市場には、冷却剤が必要だ。金利を上げたり下げたりするのは、欲望を理性で制御する行為とも言える。

 では、自らの欲望のまま、スパムを送り込む業者制御すべきか?

 答えはもちろんイエスだ。イナゴには悪いけど、農場を荒らされてはたまらない。網で捕獲して佃煮にするなり、薬剤で殺すなりしないと、われわれ人間が死んでしまう。

 でも、彼らを法の網ですくい取るのは極めて困難だろうね。じゃあ技術的に対抗すればいいと思うけど、それも簡単じゃない。スパムフィルターは、スパムを選別をしているだけで、ネットのトラフィックを減少させるわけじゃないからね。役には立つけど根本的な解決じゃないわけだ。

 ぼくが使った掲示板の改造CGIも同じことだよ。しかも掲示板は、対策がとれるCGIが極めて少なくて、ホームページを、自分の好みのデザインにしたいサイトマスターの要望に答えることはできていない。ぼくだって、ゲストブックと感想掲示板を変更するのは悩んだ。フリーで提供されているプログラムに文句は言えないけど、もしも、CGIの作者さんたちが、スパムの問題を真剣に考えてくれるようになったら、もうちょっと状況は改善されると思う。作者さん、いや作者様。どうか、よろしくお願いいたします。

 もう一つ、微かな期待として、スパム業者自身が、どこかで自主規制を作ってくれないものかな。以前、行き過ぎた風俗産業の営業が、風営法という法律を生んだとき、彼らには多少のショックがあったはずだ。まあ、あの法律のせいで、彼らはネットに宣伝の場を求めている側面もあるだろうけど、このまま宣伝がエスカレートすれば、なんらかの法的規制が叫ばれるだろうし、ぼくらの意識だって、かなり高まる。そうすると、彼らにとってカモが減ることになるんじゃないかな。そうならないために、自主規制を作って、社会の反発を和らげようと思って……くれないよなあ(苦笑)。さっきも言ったとおり、イナゴの大量発生は、どうにも止められないんだろう。イナゴ自身にも。

 そうするとやはり、根本的な解決ではないにしても、スパムフィルターの精度をより上げて、掲示板にも対策がとれるものを増やし、大手の通信業者が、業者のIPアドレスなどのブラックリストを共有して対抗するしかないか。

 あとは、われわれ自身の襟を正すしかないね。中学生と遊びたい変態野郎には、なにを言っても無駄だろうから、警察にお任せするとしても、楽してダイエットしたい女性に、変な薬を買わない方がいいよと言っても無駄だろうか? 映画や音楽CDの海賊版を買う人に、ほんの少し待って、レンタルショップで借りたらどうですかと言っても無駄だろうか?

 うーん……基本的には無駄だろうな。人の欲望に底はない。

 でも、「こんなことしていいのかな?」と、心に迷いがある人には多少の効果があるかもしれない。そう思っているみなさん、踏みとどまろう。変な薬で痩せようと思うより、水を飲んでた方がずっといい。微かな罪悪感を感じながら、画質の悪い(悪くないのかな?)海賊版DVDを見るのは、視力にも精神的にもよくないよ。

 がんばろう、みんな。ほんのちょっとだ。ほんのちょっとだけハードボイルドを気取って、カッコよく生きようぜ。せめて心の中だけでもいい。偽善であってもかまわない(ぼくだって偽善者だ)。でもそれが、長い長い目で見れば(本当に長そうだが)、不愉快な業者の、不愉快な活動を少しでも減らす道なのだと思う。

 ふう……

 一気に書いて疲れた。読む方も疲れたよね。説経臭いエッセイになってごめん。でもまあ、そういうことなんだ。ホーリーナイトは終わったけど、自分への戒めと、抱負を抱くには悪くない時期だろ?

 みなさん、ご静聴ありがとう。よいお年を。


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