サイトマスターの憂鬱



 なにが憂鬱だって? いや、掲示板をご覧のみなさんはお気づきだろう。最近、宣伝の書き込みが激しさを増している。彼らが書き込むURLをクリックしたことはないので、いったい、なにを宣伝しているのか知らないが、おそらく、そのほとんどはアダルトサイトだと思う。

 いや、まったく憂鬱だ。ちなみに、「憂鬱」という漢字は、PCの日本語変換がなければ、ぼくは書けない漢字なのだが、まあ、そんなことはともかく、憂鬱なのだ。またまたちなみに、薔薇という漢字もPCがなければ書けない……って、なんで話がそれるかな。

 ところで、ぼくの憂鬱な気分は、いくつかの感情が複合して形成されている。以下に複合要因を自己分析しながら述べてみよう。

 まず第一に気持ちが悪い。宣伝書き込みの投稿者を見ると、けっこう女の名前なんだよね。「由香里」とか「恵理」とかさ。たまに「もえこ」なんてバカげた名前もあるけど、そっちの方が、何百倍もマシだ。だって、本当はむさ苦しい顔の男が書き込んでるんだぜ。

 想像してごらんよ。ぼくの掲示板に繋がっているどこかのPCは、薄暗い湿った空気の部屋に置かれていて、その前にはカップラーメン片手に、女の名を騙って「あたしと楽しいことしてぇ〜。あふん、あはん」なんて書いている、醜い顔の男がいるんだぜ。気持ち悪いどころの騒ぎじゃない。ぼくなんか、その現場を見た瞬間、即死だね。

 そういえば思い出した。なんの映画だったか忘れたが、数年前のハリウッド映画で(かすかな記憶では、ブルースブラザーズ2000だったような)、テレホンセックスの会社の、電話受け付け(というんだろうか?)場面をコミカルに描いたシーンがあった。

 男がテレホンセックスの会社に電話すると、若い女が出て、いやらしい言葉をしゃべりながら、男は自分で自分の息子さんを楽しくさせる……というシーンなんだけど、画面がテレホンセックスの会社に切り替わると……広い部屋で、男からの電話を受けている大勢の女性たちが、ぜんぶ還暦をとっくに過ぎたようなバアさんばっかり!

 あれには笑った。バアさんが「あふん、あはん」とか言ってる声を聞いて、男が喜んでるんだもんな。それでもさ、まだいいよ。バアさんだって女だもん。でも、掲示板やメールを使って「あふん、あはん」と書いてるのは、さっきも言った通り、むさ苦しい顔の男なんだから笑えない。

 第二に、腹立たしい。いや、もちろん腹立たしいのは当たり前なんだけど、なにが頭に来るって、こっちがどんなに気分を害しても、相手は痛くもかゆくもないってところなんだ。たとえば、ほとほと宣伝書き込みに疲れ果てて、泣く泣く掲示板を閉鎖したサイトマスターがいるとしよう。では、宣伝を書き込む連中は、宣伝すべき掲示板が一つ減って残念がるだろうか?

 まさか!

 やつらはなんとも思わないさ。この世には、掲示板が星の数ほどある。一つや二つ、いや百や千の単位で掲示板が消失したとしても、彼らはなんとも思わない。「ちっ」と、一瞬だけ舌打ちぐらいはするかもしれないがそれだけだ。悲しむのは被害に遭ったサイトマスターと、その掲示板を愛していた利用者だけ。それがわかっているから腹が立つんだよ。断言してもいい。やつらに罪の意識は一カケラもないはずだ。

 ぼくは常々、宣伝書き込みをする連中を、「職業犯罪者」と呼んでいる。この言葉は、職業として犯罪を犯す連中には、それが職業であるがゆえに、罪の意識という、人間として当然の感情が、凍結または欠落しているという意味で使っている。最悪の場合は、凍結でも欠落でもなく、生まれながらにして罪の意識が存在しないのかもしれない(まあ、そこまで非人間的ではないと思うけど)。

 また、アダルトサイトや、いかがわしいダイエット食品を販売しているサイトは、暴力団が運営している場合もあるだろう。となれば、それこそ比喩的ではなく、彼らは職業犯罪者そのものなのだ。ぼくらは掲示板を運営しているだけで、彼らの営業活動に加担させられているとも言える。

 ここで第三の感情がもたげてくる。それは虚しさだ。要するに、職業犯罪者には、どんな手段で抗議しても無意味なんだ。「無駄」という言葉ではない。「無意味」という言葉が相応しい。われわれは彼らの前で泣くしかない。悪事は千里を走ると遠山の金さんは言うけど、ぼくらの声は一歩も前には進まない。

 気持ち悪さ、腹立たしさ、そして最後には虚しさだけが残る。こうして、ぼくの憂鬱は完結するのだ。って、なんか太宰治みたいじゃない? ちょっとカッコいいかしら(笑)。ついでに、漠然とした不安も付け加えるか。そうすれば芥川龍之介も納得するぜ。

 いや、冗談抜きで「漠然とした不安」もある。このままネットが職業犯罪者の温床になる予感が、ぼくに不安を抱かせる。われわれは彼らに勝てるだろうか。まさか負けはしまい……と思うのだけど、そうともいいきれない気がする。

 うーん。すごいな。掲示板の宣伝書き込みに対してエッセイを書き始めたら、なんか純文学調じゃないか。これが、やつらの低級な頭脳と、わが灰色の脳細胞の差だな。まあ、「あたし理恵でーす。あなたとエッチなことしたいの。あふん、あはん」とか書いている連中の頭脳と、自分の頭脳を比べてみたいとも思わないけど(苦笑)。

 さて、このままの調子でエッセイを書いていると、純文学調とかいいながら、じつのところただの愚痴で終わるという、それこそ低級な次元に落ち込んでしまうので、対抗策を考えよう。

 さっきも言ったように、抗議の声は届かないので、そもそも抗議はできない。しかも、掲示板を閉鎖するという、もっとも効果的だが最悪の選択をしても意味がない。

 それでも、現在4つある掲示板の数を減らすことは必要だと思う。まず、もうほとんど利用されることの無くなった投稿掲示板を閉鎖しようと思っている。つぎにゲスト掲示板も必要ないだろう。いや、本当はどちらも残しておきたいのだけど、いまの状況では、この2つを閉鎖して、少しでも負担を減らしたいと思う。どうかご理解をいただきたい。この場をお借りして、ゲスト掲示板と投稿掲示板を利用してくださっていたみなさんに、心からお詫びを申し上げます。いままでありがとう。

 で、残るはメインの掲示板である「雑談」と「感想」だ。この2つは、Script1が開設して間もなく設置したもので、歴史と伝統があるのだ(大げさだね、われながら)。だから、なんとしても死守しなければならない。ここが落ちたら、国敗れたりだ。

 まず手始めに、掲示板のURLを変更してみようと思っている。これで外国からの書き込みはいくらか減少するだろう。日本の書き込みは減らないだろうが、しばらくは、こまめに削除することで対処しようと思う。

 それでも我慢の限界を超えたなら……もう一段、対抗手段を厳しくすることも考えられる。たとえば、うちの常連さんであるとっとさんがやっているような、検閲も考えられるし、パスワード制の導入もあり得るかもしれない。

 以上、実際の作業に入る前に、みなさんにご理解とご協力を求める意味も込めて、このエッセイを書きました。遠くない未来に、ゲスト掲示板と投稿掲示板は廃止し、なおかつ雑談と感想のURLが変わります。これらを直接ブックマークしているみなさんは、いまのうちに、ブックマークから消して、掲示板への入室は、トップページ(あるいはフレーム)からのリンクのクリックでお願いします。

 最後に、久しぶりのエッセイが、こんなネガティブな話で、本当にごめんなさい。こんどは、明るい話題が書けますように……


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