鉄腕アトムの国



 重機を操縦(運転?)できるロボットが開発されたそうです。ちょうどキッチンにコーヒーを入れにいってたとき、NHKのニュースでやってまして、どこが開発したのか、細かい説明を聞き逃してしまったのだけど、あわててテレビの前に戻ってみると、画面には、たしかにパワーショベルに乗って、土を掘ってるロボットがいました。まだ自分で重機への乗り降りはできないそうだけど、いつか、人間では危険で近づけない場所で作業をする用途に使いたいそうです。

 ほほーう。

 で、インターネットで探したら、ありましたよ。開発したのは、独立法人産業技術総合研究所のみなさん。

 ん? 独立法人産業技術総合研究所? どっかで聞いたことあるな。ああ、思い出した。なんでも噂じゃ、あそこの地下研究所には、宇宙人が冷凍保存されてるわ、カプセルの培養液の中に、超能力を持った美少女が浮いてるわと、そりゃあもう、人には言えない恥ずかしい…… じゃなくて、秘密の研究を日々行っている…… あの、わかってると思いますが、冗談ですからね(笑)。

 さて。それはそうとですね、じつは、このロボットの報道を聞いて、ぼくはナンセンスだと思ってしまいました。いや、人間が近づけない場所にロボットを送り込むことに対してではなくて、重機にロボットを乗せることが。なぜ、そんなことをする必要があるんだろう。重機をロボットにしたほうがいいじゃないか。つまり、人間型のロボットを作って重機に乗せるより、「重機が自動で動く」ようにしたほうがいいではないか。重機の各所にセンサーを取り付けて、自動運転させるほうが、人間型ロボットを作るより、はるかにコストはかからないだろう。巨大なロボット。いわゆる産業ロボットの発展型。日本は、産業ロボットの研究と生産で世界をリードしてきた実績があるのに、人間型ロボットに重機を運転させるなんて、バカなこと考える連中がいるもんだ。

 いや……

 まてよ。と、考え直しました。たしかに、ただ「自動で動く」機械を作るのであれば、重機をロボット化したほうが安上がりでしょう。でも、それだけではもちろんダメですよね。重機を動かすには、作業の安全性も十分に確認しなくてはいけないし、穴を掘るだけではなくて、もっと微妙な操作ができるように、恐ろしく高度なコンピュータプログラムが要求されるでしょう。人間ほどの判断力を持った人工知能を作るのは、おそらく、ぼくが生きているあいだには無理だろうけど、それでも、いつか実現できるかもしれない。

 そうなったとき。あるいはそうなる過程でもいいけど、そのような「高度な人工知能」を、重機一台一台に搭載するのは、はたして現実的だろうか。むしろ、重機は単純な機械のままにしておいて(安く生産して)、それに乗る高級なロボットを作ったほうがいいんじゃないだろうか。そのロボット一台で、さまざまな種類の重機を運転できるわけだ。たとえば、重機が十種類、十台あったとしたら、重機をロボットにするためには、十台の人工知能が必要だけど、人間型ロボットなら、一台ですべてをカバーできる。コストは十分の一だ。

 もちろん、十台を同時に動かしたいときは、十台の人間型ロボットが必要なので同じことなんだけど、そういう状況は、あまり多くないかもしれない。たとえ、一台の重機に一台の人間型ロボットが必要だとしても、メンテナンスは、人間型ロボットのほうが楽だと思う。人工知能を整備するには、専門知識を持った人間と、専門の設備が必要だろう。そういう設備の整った場所に、パワーショベルのような、でかい重機を持ち込まなければメンテナンスできないというのは考えものだ。人間型ロボットなら、場所もとらないし、なんとなれば、自分で歩いて、メンテナンス工場まで行くかもしれない。

 だったら、人工知能ユニットだけ外して持っていけばよい設計にすればいい。という意見もあるでしょうが、その人工知能ユニットの規格を、すべての重機で統一するのは大変なんじゃないだろうか。その点、いま現在でも、すべての重機が、人間というユニットが乗るように設計されている。将来もそうでしょう。人間型ロボットなら、重機の規格をなにも変更する必要はないわけです。人間の手が、四本になったり、足が三本になったりしない限り。

 さらに、専門的なメンテナンスだけでなく、日々の扱いという問題もありますな。重機にデリケートな人工知能が搭載されていたら、トラックの荷台に乗っけたまま、そのへんに雨ざらしにしておくなんて扱いはできなくなるかもしれない。人間型ロボットなら、作業が終了したら、重機から降りて、安全な室内に自分で戻るでしょう。それどころか、人間のご主人さまたちに、お茶の一杯も入れてくれるかもしれない。オツカレサマデシタ…… オチャヲドウゾ…… なんて言いながら。けなげなもんだ。そんで、ちょっと熱すぎるぞ! とか怒られたりして。すると、シュンと頭を下げて、スミマセン…… とか謝ったりするわけです。かわいそう。でも大丈夫。遠い遠い未来には、人間より、ずーっとおいしいコーヒーを入れられるレプリカントが存在するハズですから。

 ふむ……

 どうやら、ナンセンスな研究どころか、非常にすばらしい研究じゃないかという気がしてきましたよ。さすが鉄腕アトムの国ですね。かって、日本といえば安くて高品質な自動車を生産する国として有名だったわけだけど(まあ、いまでもそうだけど)、近い将来、人間型ロボットを生産する国として有名になるのかもしれない。いや、すでに、そうなりつつありますよね。ホンダやソニー、そして、そのほかの企業や研究所も、最近ロボットの開発に力を入れているようです。楽しみですね。


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