最近の出来事など



■誤字の嵐

 先日、雑談掲示板で「小説を書くときに気にすることはなにか」という話題が出ました。みなさん、それぞれに気をつけている部分があるわけですが、すべての人に共通の「気をつけなければならない点」がある。それは誤字脱字。

 誤字脱字。ああ、なんと背筋の寒くなる言葉だろう。こいつは、小説のバグですな。まさに害虫。百害あって一利なし。コンピュータプログラムは、大規模になるとバグを完全に排除するのは不可能なのだそうだけど、小説の場合は、どんな大作でも丹念に校正すれば、誤字脱字をゼロにできる。だから「これは仕様です」なんて、いいわけは通用しない。

 コンピュータで文章を書いていると、誤字のオンパレードに出くわす。とにかく、日本語変換が、同音異義語をわんさかご存じでいらっしゃるから、バシバシ誤字を生産してくれるわけです。手書きで書いてる人より、コンピュータ使っている人の方が、圧倒的に誤字が多いでしょうね。手書きだったら、最初から「五時脱字」なんて書かない。まあ、ネットにアップするためには、電子的なテキストにしなきゃいけないんで、オリジナルが手書きでも、同じことだけど。

 あと、掲示板でも指摘されてたけど、日本語変換は、漢字をたくさんご存じでらっしゃるから、手書きでは書かないような(いや、書く人もいるだろうが)漢字を、つい使ってしまうという問題もある。「憂鬱」とか「薔薇」とかは、まあ、手書きでもがんばって書きましょうねって気もするけど(すいません。書けませんぼく)、そういう難しい漢字ではなく、ふだんは「漢字にしない漢字」を使っちゃう。ちょっと例文を作ってみましょうか。ぼくがお手本としている星新一の文章を引用しましょう。以下は、短編「業務命令」から、冒頭部分の抜き書き。

原文
 その青年は、希望していた会社に入ることができた。そして、その喜びにひたりながら、新入社員としての生活を何ヶ月かすごした。
 会社は街の中央部の近代的な大きなビルのなかにあり、そのことも彼をいい気分にさせた。もちろん、ただ喜んでいただけではない。配属された部署において、せいいっぱい働いた。世の中は好景気ではなかったが、社の業績はまあまあだった。


 では、こいつを、無理やり漢字の多い文章にしてみよう。


漢字使用
 其の青年は、希望していた会社に入ることが出来た。然して、其の喜びに浸りながら、新入社員としての生活を何ヶ月か過ごした。
 会社は街の中央部の近代的な大きなビルの中に有り、其の事も彼を良い気分にさせた。勿論、只喜んでいただけでは無い。配属された部署に於て、精一杯働いた。世の中は好景気では無かったが、社の業績はまあまあだった。


 いかが? 判断はみなさんにおまかせします。でも、念のために言っておくと、漢字をわざと多用する作家もいる。そういう人は、自分のスタイルとしてやってるわけだから、漢字が多い小説が「悪い」と言ってるんじゃない。お間違えなく。

 と、お断りを入れたところで、漢字の使用についてもう少し。

 ぼくは、どの単語を漢字にして、どの単語をひらがなにするか、けっこう悩んできた。というか、いまも悩んでいる。「使用」というよりも「選択」だね。自分の作品の雰囲気から考えて、あんまり漢字が多いのは似合わない気がするんだよね。とはいえ、コメディから、ちょいとマジメな作品まであるんで、なかなか統一的なルールが、自分の中で確立できないでいる。あと、難しいのが、同じ意味のべつの漢字を、どう使い分けるか。たとえば「人に聞く」や「音楽を聴く」などは、まあ、わかりやすいけど、「固い意思」なのか「硬い意思」なのか、悩む。辞書を引くと、どっちでもいいみたいだけど…… という漢字は、けっこうたくさんある。

 さて。つぎに、勘違いや国語の知識の欠落による誤字。「汚名返上」を「汚名挽回」と書いちゃうのはカワイイほうで、名詞の「話」と、動詞の「話し」は、いまだに、ぼくも悩む。たとえば、「きのうお話のあった件ですが」と書いちゃいけない。この場合は「きのうお話しのあった件ですが」(※1補足)が正しいはずだ。そうだよね? でも、よく間違えるんだよなぁ。

(※1補足)
 と、「話し」について書いたところ、さっそく掲示板でご指摘をいただきました。まず、名詞と動詞の使い分けについてですが、動詞の連用形で、「話す」に、「〜ます」「〜た」などと、つながる文を考えるとわかりやすい。

 さて。ここで、べつの問題が発覚。動詞に「お」をつけて、丁寧語にするのはおかしいと、ご指摘いただきました。だから、「お話しのあった」と書くのはおかしい。

 これは「お食べになった」とかを考えるとわかりやすいですね。この場合は、「召し上がった」が正しい。というか、よりエレガント。だから「お話しのあった」は、「おっしゃった」のほうがいい。ネットで調べたところ、「お話しのあった」も、まあ、慣例的には使うので、完全に間違いとは言えないみたいですが、気をつけたい点です。いやはや、敬語、丁寧語、尊敬語(それぞれ、微妙に違う)は、本当に難しいですね。

 以上、補足おわり。


 あと、ぼくがよく間違えるのが「〜をせざるをえない」ってやつ。これを「〜をせざる終えない」とやっちゃう。「を」を「お」と打っちゃうんだ。このクセが、どうしても直らない。恥ずかしい。助詞の使い方がなってないですな。さすがに「花が咲いた」を「花を咲いた」と間違えることはないけど、「てにをは」は侮れません。

 そして、もっと難しいのが主語と述語。ぼくは、ちゃんと書いてるだろうか? 書いてないだろうなあ。自分じゃ、気づいてないけど。

 と思って、最新作のスターシードの序文を読みかえしてみました。最初のほうにこんなくだりがある。

「早くから、月面の地表には、トリチウムが存在していることは知られていたが」

 まあ、間違っちゃいない。間違っちゃいないけど、日本語として美しくない。いや、醜いといえる。最初の「早くから」は、「月面の表面にトリチウムが存在する」にかかっているわけなんだけど、ほんらい主語になるはずの「トリチウム」が、述語の「早くから」のあとにきちゃってる。「地表には」の助詞も変だ。直そう。

「月面の表面にトリチウムが存在することは、早くから知られていたが」

 うん。スッキリしましたね。ちなみに、Script1に掲載しているスターシードの本文も、すでに直しました。だから、前の文を探しても無駄です(笑)。じつは、こういう細かい修正は、けっこうやってるんですよ。もちろん、誤字脱字を指摘されたら、なるべく早く直すけど、それ以外にも、上に書いたような表現の修正をね。と、それで思い出した。「Blind Chord」で、イギリスとカリフォルニアの時差の間違いを、ご指摘いただいていたのでした。直そう直そうと思いつつ、けっこう大幅な修正をしなくちゃいけないので、先のばしにしていた。あいつを直さないと年が越せないなあ。


■スターシード

 ぼくの新作SF。どうも「宇宙の秘密」というエッセイを書いてから、科学づいちゃってるね。SFを立て続けに二本も書いちゃった。前作の「ラバーズ」は、SFとはいえ、かなりいいかげんなエセ科学だった。コメディ調だから許されることだよね。スターシードのような、どっちかっていうとマジメ系では、あんまりいいかげんな科学技術を出すとシラけると思う。というわけで、スターシードに登場する科学技術は、現代の延長で考えました。もちろん、重力場を作るような、おそらく、理論的に不可能だろう技術も出てくるけど、そのへんは「お約束」として許してください。ってところかな。

 あんまり書くとネタバレなっちゃうけど(これは「あとがき」じゃない)、スターシードにはマジメ系を書きたいがゆえに、全編に渡って、「リアリティ」という重しがあった。登場人物たちには、もっとスペースオペラ的な活躍をさせたかったのだけど、ダメなんだ。キャラクターが言うことを聞いてくれないんだよね。そんなバカなことさせるな。もっとマジメにやれ。とキャラクターたちから怒られている感じだった。いやマジで。

 と言うのは、ある程度、書き進んでいくと、キャラクターたちって勝手に動き出すんだよね。あれは、本当に不思議だよ。作者の意志じゃないんだ。もちろん、作者の「意識」ではあるんだけど、「意志」とは違うなにかで、彼らは動いている気がする。べつに、作家ぶって言ってるんじゃないよ。小説を書いている人なら、だれでも、同じように感じるんじゃないだろうか。

 で、今回のスターシードでは、キャラの心理描写よりも(それほど描写してないけどさ)、アクションシーンに苦労した。アクションシーンを書くこと自体は嫌いじゃないんだけど、今回は、各所でアクションに移行する展開が多かったので、バリエーションを考えるのが大変だった。毎回、銃の撃ち合いじゃ、おもしろくないでしょ?


■スパムメール

 いわゆる勝手に送られてくる広告メール。最近、サブジェクト(件名)の頭に「未承諾広告※」と入っているメール、みなさんのところにもきませんか? 多いんだよねえ。ほぼ毎日きます。多い日には、三通ぐらい。
 なんでも、勝手に送りつける広告メールには、必ず「未承諾広告※」と入れなきゃいけない法律ができたそうで、さらに本文に事業者の名称と連絡先、そして配信停止の方法を書かないといけないそうだ。そういう法律ができるのは大変けっこうなんだけど……
 ダメですな。書かれている配信停止の方法をいくら試しても(三回ぐらいだけど)、ぜんぜん配信は止まりません。
 その手のメールは、まあ、たいていアダルトグッズの販売かな。イヤになっちゃうのが、たま〜に、本文の一行目に「召しませMoney!」を拝見しました。って書いてあるとき。召しませMoney!を見て、ぼくにアダルトグッズを売りつけたくなったのか、あんたは!
 やれやれですな。ま、しょうがないので、メーラーのフィルタリングで対処することにしました。「未承諾広告※」と書かれたメールは、サーバーから受信した段階で、即刻自動削除。最初は、ぼくがユーザー登録してるまっとうな会社からの新製品のお知らせメールも削除の対象になるので、完全削除じゃなくて、ゴミ箱に移動するようにフィルタリングしてたんですけど、もういいや。みんな消えてくださいませ。


■ハリー・ポッターと秘密の部屋。

 ご存じ、大人気のファンタジー映画の第二弾。見てきましたよ〜 相変わらず良質なファンタジー映画でございました。ぼくは子供を育てた経験がないし、年寄りでもないのでので正確なことは言えないけど、おそらく、十歳ぐらいの子供から、果ては、そろそろ川の向こうからお迎えが来るかもしれない人生の大先輩まで楽しめる作品です。もちろん、好き嫌いはべつにして。
 この作品には、主人公ハリーの敵になる(だろう)、その名を口にするのも恐ろしい悪い魔法使いが出てくるっていうか、出てきそうというか、出てくるだろうというか、まあ、詳しくは原作を読むなり映画を見るなりしてほしいんですけど、この悪い魔法使いが、ぼくは仮面ライダーのショッカーに似ていると思いました。ショッカーって、世界征服をたくらんでるわりには、幼稚園児の乗ったスクールバスを襲ってみたりしてセコイじゃないですか、やってることが。ハリー・ポッターの悪い魔法使いも、みんなに邪悪だ邪悪だと言われてるわりには、それほど大それたことはなさいません。そのへんが、ショッカーに似てらっしゃるなと。まあ、だからこそ全年齢を対象とした作品なのだろうけど。
 その点、やはり第二弾が公開間近の「指輪物語」のほうは、たいへん規模が大きい。ハリー・ポッターが、ご家庭内でご不要になりました…… じゃなくて、家庭的な雰囲気があるのに比べて、指輪物語は、まさに壮大なスケール。悪者は、マジで、本気で、真剣に、世界征服を狙っております。
 この、二つの対照的な作品。もちろん、ぼくはどちらも好きなので、競うように映画化されていくのは、とてもうれしいわけなのですよ。
 あ、そうそう。「ハリー・ポッターと秘密の部屋」は、最後のクレジットが終わるまで、いすに座っていることをお勧めします。


■料理の写真

 先日、友人とラーメンを食べていたら、ライターとカメラマンが入ってきた。どうやら雑誌の取材らしい。じつはそのラーメン屋、ちょっと有名なお店なんだってさ。
 ご存じかと思うけど、ぼくの本職はカメラマン。一緒にいた友人もカメラマン仲間なので、その雑誌のカメラマンが、どんなふうにラーメンを撮るか、興味津々で見ていた。
 数分後、ぼくらは首をひねった。あんなライティングで撮れるのかぁ? そのカメラマンが組んだライティングは、料理撮影の常識とはぜんぜん違っていて、かなり変なライティングだった。あんなライティング、ぼくはぜったいに組まない。友人もやらないといっていた。ちゃんと写るのかよ、あれで。大丈夫か? ぼくが撮りましょうか?
 などと、もちろん言わなかったが、気になったので、家に戻ってから、そのカメラマンの組んだライティングを再現してみて、テスト撮影してみた。ご丁寧に、ラーメンの器に、薄めた醤油を入れて。まあ、そうしないと映り込みとかわかんないし。
 その結果、ちゃんと写ることが判明しました! ごめんなさーい。大丈夫かなんて思っちゃって。へへ。
 でも、ぜんぜん、おいしそうには写らなかったです。なんちゅうか、失敗のないライティングでした。じつは、料理には料理をおいしく写すためのライティングがありましてね、それが難しいのですよ。インスタントフィルムなどで、テスト撮影をしてみて、試行錯誤しないといけない。
 そのカメラマンの組んだライティングは、そういう試行錯誤が必要のない、簡易的な方法でした。言葉は悪いけど、手抜きライティング(苦笑)。まあ、時間の限られた雑誌の取材なんかで、まともな料理ライティングなんかやってられない気持ちはわかりますが……
 でもねえ、ぼくも雑誌の仕事で料理の写真を撮るけど、ちゃんと料理ライティング組んで、がんばってますよ。見たい?

お店で撮影。


 こんな感じ。某誌のクリスマス特集で撮った七面鳥です。おいしかったでーす(食ったんかい!)。これは、ラーメン屋で出会ったカメラマンと同じように、ふつうのお店で、時間に追われながら撮影しました。でも、料理を撮るときの定番ライティングをちゃんと組んでます。えっと、つまりなにが言いたいかというと、きっと、あのカメラマンより、ぼくの方が写真がうまいです。仕事ください(笑)。


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