夏といえば



■夏といえば……

 ゴキブリですな。ゴキブリ目、ゴキブリ科のみなさま。

 それにしても、なんで人間はゴキブリが嫌いなんだろうか。いや、「人間は」なんて言うと、「オレはべつに嫌いじゃないぞ」と反論なさる方もいるかもしれないけど、まあ、ほとんどの人が、ゴキブリに好感を持っていないことはたしかだろう。

 なぜだ?

 あの、油に浸したような光沢がイヤなのか? あの黒っぽい色がイヤなのか? あの平べったい形がイヤなのか?

 うーむ。それぞれ個別に見ていくと、どれも、それほどイヤなものではない。光沢がイヤなら、人間はピアノもメタリック塗装の車もイヤなわけだし、黒っぽい茶色なんて、冬に着るコートやジャケットにだってある(ゴキブリ色といわれたら、嫌いになるかもしれないけど)。平べったいのがイヤなら、ひまわりやスイカの種を見ても悲鳴を上げなきゃいけない。

 ところが、これらの要素がゴキブリに適用されると、とたん、すべてがイヤになる。とにかく、あの光沢がイヤだ。光沢といえば、ポマードを塗りたくった、オッサンのすだれハゲもかなりイヤだけど、それよりも、もっとゴキブリのほうがイヤだ。

 でも、考えてみると、ゴキブリというのは、それほど危険ではないように思える。べつにかみつくわけでもないし、マラリアのような、生死にかかわる伝染病を媒介するわけでもない(いかにも、バイキンを媒介しそうだけど)。

 なのに、なんでゴキブリが嫌いなんだろう。

 ぼくは、この問題を哲学的に考証した結果、ひとつの結論に達した。

 やつらは、プライバシーを侵害してるから、人間に嫌われるんだ。考えてみたまえ、ふつう、人のうちに行くときは、ごめんくださいとか、挨拶するもんだし、なんなら、手土産のひとつも持っていくもんだ。夕飯時になれば、そろそろ、おいとましましょうと、席を立たなくてはいけない。なのに、ゴキブリたちは、勝手に人の家に上がり込んで、人んちの食べ物を食い散らかして、しかも、電話だって迷惑な時間になると活動を開始しやがる。これを、プライバシーの侵害といわずしてなんといおう。

 それと、やつらの大きさも問題だ。人んちに勝手に上がり込む、不届きな昆虫は彼らだけではないが、その昆虫のなかでも、やつらは最大の大きさを誇っている。ゴキブリほど大きなクモはいないし(いるだろうけど、めったに見ない)、蚊もハエもずっと小さい。とにかくゴキブリは格段にでかいのだ。

 さらに。ふだんはシャイなふりして、こそこそ逃げ隠れするくせに、ふいにファイターに変身して、人間に飛び掛かってくる。文字通り、飛び掛かってきやがる。しかも、スリッパか新聞紙かなんかで、バチーンと叩かれて、平べったいのが、さらに、内蔵をぶちまけて平べったくなっても、ピクピク、ピクピク、動いてる。やつらには、神経節と呼ばれる、神経の束が、頭部だけでなく、胸と腹部にもあるんだ。だから、そのうちのどっかが機能していれば、筋肉を収縮させることができる。

 ああ、思い出すだけで寒けが……

 なんだか、文章が感情的になってきたな。いかんいかん。冷静になろう。

 ずいぶんゴキブリのことを悪く書いてますが、彼らから言わせれば、人間のほうが新参者であり、自分たちのほうが、ずーっと、由緒正しい生き物だと主張するかもしれない。たしかに、ゴキブリの先祖は、六億三千万年ほど前に、デビューしている。いわゆる節足動物と分類される仲間たちだ。ゴキブリが、どのあたりで、いまの形態に進化したのか、たしかなことは調べてないけど、まあ、およそ三億年ほど前には、ほぼ、いまの形のゴキブリくんたちがいたようだ。

 これは、たしかにすごい。人間の先祖は、六千五百万年前ですら、まだ小さなネズミのような動物だった。巨大な恐竜が闊歩していた時代には、哺乳類はあまり進化できなかった。それが、どういうわけか(たぶん隕石の衝突だろう)、巨大な恐竜をはじめとする、地球のほとんどの生物が大絶滅すると、小さなネズミたちは、やっと、地球の生物の表舞台に立つことができた。それが進化してできちゃったのが人間だ。ゴキブリは、人間より数億年前から地球にいて、しかも大絶滅を生き残った、由緒正しい強者たちなのだ。こんな連中が相手では、地球のさまざまな生物を絶滅に追いやってきた、わが人間たちでも分が悪い。じつは、いまの地球上にいる全動物の八〇パーセントを占めるのは、節足動物だから、その意味でも、ゴキブリはマジョリティーの一員なのだ。全動物の八〇パーセントですよダンナ。自民党みたいなもんですよ。(いえ、べつに、自民党とゴキブリを同一視しているわけではないですが)。

 なんにしても、哺乳類と節足動物は、あまりにも違いすぎる。それが差別につながっているな。だって、同じ哺乳類は、たいてい本能的にカワイイと感じてしまう。犬猫はもちろん、ネズミだって、ドブや屋根裏に住んでなきゃ、それなりにカワイイ。そういえば、ミッキーとかいう世界的に有名なネズミもいたな。ピカチュウだって、ネズミみたいなもんだ。豚だってカワイイ。しかも、やつらは食べてもおいしい。一石二鳥。

 でも、節足動物(昆虫)は、まあ、お好きな人はお好きだろうけど、せいぜい、かぶと虫とかクワガタとか、あるいは蝶々とか、そのへんどまりじゃないだろうか。

 けっきょく、なにが言いたいのか、自分でもわからなくなってきたので、この話題は、このあたりで、打ち止めとしよう。とにかく、哲学的な考察の結果として言えることは、ゴキブリは嫌いだってことだな。


■夏といえば……

 ゴキブリ。じゃなくて、花火でしょう。ぼくは、花火を見るのは好きなんだけど、いままで写真を撮ろうと思ったことはなかった。ビールを飲むのに忙しく…… コホン。花火を鑑賞するのに忙しくて、写真なんか撮ってられなかったのだ。

 でも、今年は挑戦してみた。デジカメで。デジカメだったら、フィルムのことを気にしなくていいし、その場で結果がわかるから、試行錯誤もしやすい。

 いや、しかし、花火の写真って、思っていた以上に難しいですな。なかなか、バシッとプロっぽく写らない。百枚ぐらい撮って、まあ、なんとか人に見せれそうなのは、二十枚もなかった。的中率二〇パーセントか。低いなあ。これが仕事だったら、クライアントに怒鳴られちゃうな。

 見たい? じゃ、ちょっとだけ。



■夏といえば……

 ラブソングが聞きたくなっちゃった。いや、なにもいわないでくれ。聞きたくなっちゃったものはしょうがないじゃないか。だって、夏なんだもん!

 そこで、TSUTAYAというレンタルビデオ屋にいった。CDの品揃えも豊富で、なにを借りようか迷う。すると、店内に懐かしいメロディーが流れた。長渕剛の「順子」だ。漢字これであってたかな? 忘れちゃった。「純子」だったらごめん。とにかく、流れちゃったのだ。

 おお、順子ぉ、きみの名を呼べばぼくは切ないよ〜♪

 うん。切ない。いいかも。さっそく長渕剛のCDを探す。影響されやすいなあ。でも「順子」が入っているベスト盤を見ていたら、なんか冷めた。長渕剛って、じつは、あんまり好きじゃないんだよね。「順子」を聞きたいだけで、二枚組のベスト盤を借りるのはなんだかなあ……

 だからやめた。そのあと、井上陽水がかかったけど、ラブソングじゃなかったので、ぼくの触覚は反応しなかった。さらに、ニューヨークシティセレナーデがかかった。おお、これはいいかも。って、古いのばっかじゃんか! 今日はナツメロ大会か?

 違うんだよ、ダンナ。ぼくが聞きたいのは、女性のシンガーなんだ。そんな気分なんですよ、アネゴ。だから、男性シンガーの棚はもう見ない。見ないったら見ない。

 そういえば、浜崎あゆみのニューアルバム聞いてなかったな。でも、こういっちゃ失礼だけど、どれも似たように聞こえるんだよなあ。なんか、つるんとしたCGみたいな顔も、あんまり好きじゃないし。

 違うんだよ、お嬢さん。ぼくは、英語の歌が聞きたいんだよ。そんな気分なんですよ、奥さん。だから、J−POPの棚からも離れよう。

 よしよし。だいぶ範囲が狭まってきたぞ。あ、ジャミロクワイの聞いてないのがある。違うってば! 女性シンガーを探すんだろ!

 うーん。どうせなら、いままで、ぜんぜん聞いてないのがいいなあ。ぶつぶついいながら、棚を見てると、ピクン。と触覚が反応した。そのアルバムのジャケットには、モノクロで、やや疲れた感じの三十代と思われる、髪の長い女性の写真が写っていた。告白しよう。ぼくは、三十代の女性が好きなのだ。待てよ。そうすると、あと二十年もすれば、ぼくは五十代の女性が好きになるんだろうか?

 うーむ…… じつに哲学的な問題だ。でも、いまだって、二十代の女の子も好きだから、範囲が広がるってことだな。すばらしい。二十代から五十代までカバーできれば、この世の女性のかなりの部分が、射程内に入るわけで…… って、論旨がずれてきた。

 話を戻そう。そのシンガーの名は、スザンヌ・ヴェガ。

 だれだっけ…… そのベスト盤を手にとって見ると、一曲目が「ルカ」だった。

 わぉ。懐かしい〜 My neme is Luka♪ ってはじまりの曲だよね。むかし少し流行ったなあ。そういえば、この曲ぐらいしか知らないな。よし。今夜は、これを借りよう。

 で、さっそくうちに帰って聞いてみると……

 し、知らなかった。「ルカ」って、虐待を受けてる子供の曲だったのね。ビックリ。歌詞を見てると、やけに切ないじゃんか。うわーん、こういうの弱いだよ。それにしても、日本語訳のついてるCDは、いいなあ。輸入盤買ってくるとさ、歌詞を知りたいときに、苦労して訳さなきゃいけないから、大変なんだよね。


■夏といえば……

 スイカだ。最近、JRの自動改札に、触れるだけで改札を通過できるあのカード…… のことを言っているのでは、もちろんない。ぼくが言ってるのは、アフリカ中部原産の、ウリ科の一年生果菜のことだ。わが国には一六〜一七世紀に渡来した。

 ぼくは、どうもウリ科の果物が好きで、なかでもメロンが大好物なんだけど、まあ、スイカもかなり好きだ。

 近所のスーパーに行ったら、かなりでかいスイカが、一個五八〇円で売っていた。いよいよ季節ですなって値段だね。スパゲッティのソースを買いにいったぼくのビニール袋には、そのでかいスイカが、まるまると納まることになった。

 冷やす。これだけデカくなると、一晩は冷やさなきゃいけない。早く食べたいけど、がまんがまん。

 で、翌日の晩。冷蔵庫からスイカを取り出して、ゾーリンゲンの包丁で、ぐさっと半分に切る。おお、真っ赤な果肉がおいしそう!

 半分にしたスイカを、さらに半分にして(つまり、四等分にして)、がぶがぶ、食べ始めた。

 冷たい。甘い。おいしい。幸せ。これで種がなきゃなあ。

 気がつくと、四分の一を、ペロリと食べちゃった。しかも、まだ物足りない。頭の隅で、もうやめとけという声をかすかに聞きながら、ぼくは冷蔵庫にしまった、もうひとつの四等分を取り出して、またまた、がぶがぶと食べ始めてしまった。

 冷たい。甘い。おいしい……

 お腹が冷えました! 大人げないと思いました! スイカを一気に半分食べてはいけません!

 ううう。そういえば、むかし、もらったメロンを、まるごと一個食べちゃって、すごく後悔したことがあったっけ。またおんなじことやってるよ。トホホ。

 よい子はマネしちゃだめよ。ダメダメな大人になっちゃうからね!


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