ある日の出来事



 パソコンを買いました!

 って、ぼくのじゃないんだな、これが(苦笑)。じつは、パソコンのインストラクターを頼まれてしまったのです。いえ、べつに仕事ではなく、知人がパソコンを始めたいので使い方を教えてほしいって頼まれちゃったのです。

 ぼくはべつに、パソコンに詳しくないですよ。ええ、ホントに。そりゃ、ちょいと長くパソコンなんぞ使ってますが、たぶん、今時の小学生の方が詳しいですよ。ワードで行間の開け方わかんないし、エクセルだって足し算しかできませんよ。電子メールだって、アウトルックとか使ってないから、一般的じゃないし〜

 なんか、たかがパソコンの使い方を教えるだけで、バカにウダウダ言ってますが、じつは、気が進まない理由はちゃんとあるのです。だってあなた、これが若い女の子だったら、気が進まないどころか、気が進みすぎちゃって、新しい下着でも履いていこうかって気にもなる……

 コホン。

 失礼しました。わたくし紳士ですから、そういう下品なことは夢にも思いませんが、そのパソコンを始めたい知人が、七十近いおバアさんだと聞けば、だれだって、それなりに気が重くなりません? ゲートボール教えるわけじゃないんですよ。いや、ゲートボールだったら、ぼくが教えられちゃう立場ですけど、いままで、パソコンのパの字も知らずに、七十年近く生き延びてきたおバアさまに、Information Technologyの中核をなす装置についてレクチャーしなくてはならないのです。苦労することは目に見えております。

 お断りしていきたい!

 と、思ったんですが、そのおバアさま、じつはうちの愚妹がちょいと世話になったことのなる学校の先生で(いまはリタイアしてますが)、ぼくはぜんぜん世話になった記憶はないんですけども、まあ、家族としちゃ断れんわな、と。

 ともかく。丁重にも強引にもお断りできないとなれば、致し方ない。

 まずパソコンを購入しなければならない。そこからかい! と、思わないでもないですが、相手は七十近いおバアさま。なにを買っていいかもわからんわけです。ただ、ノートパソコンとプリンタがほしいと言うだけ。これはしょうがないですよね。Windowsの動くパソコンは、それこそ星の数ほどあるんで、ぼくだって、なにを買っていいのか悩む。生まれて初めてパソコンを買う人がわからなくても当然でしょう。

 となれば、店はヨドバシカメラに行くしかない! え? なんでかって? だって、おバアさま新宿界隈で買いたいって言うんですもん。で、新宿界隈ですと、じつは以前、ぼくが自分のカメラのレンズを買うときヨドバシの店員さんが、かなり丁寧にいろんな相談に乗ってくれたことがあって、それ以後、ご贔屓なんですよ。

 なんだか、なかなか話が進まないのが、ぼくのエッセイの悪いところですが、そんなこんなで、とある、雨の降る日曜日に、新宿のヨドバシカメラでおバアさまと待ち合わせをしたのでございますが……

 わたくし、いきなりビックラこきました。

 失礼。ちょっと説明。さっき、そのおバアさま、もと学校の先生と書きましたが、そういうわけで、ぼくは先生と呼んでます。以後、このエッセイでも、「先生」と表記します。

 失礼しました。話を続けましょう。その先生は、独身でして、ずっと独り暮らしだったと記憶してたんですけど、その日は、お連れの方がいらっしゃいました。先生ったら、ちょっと、はにかみながら、いま、この方と一緒に住んでるんですよ〜 と、おっしゃいました。

 そのお連れさまは男だったのです! 七十すぎのジジイ…… いや、お爺さま。

 えーっ! せ、せ、先生、まさか、ボーイフレンドですか!

 と、ぼくは思わず聞いちゃいましたよ。マジで(笑)。ボーイフレンドだそうです。若いなあ…… 人生、七十になっても青春ですな。見習わなくては。

 ま、それはともかく。ぼくがノートパソコンとプリンタを全部担いで行かなきゃイカンと思ってたんですが、ボーイフレンドがいるなら、ノートパソコンぐらい持ってくれるでしょう。よかった、よかった。七十すぎのジジイに荷物を持たせていいのかって気がしないでもないですが、彼も男ならガールフレンドの前で、年寄り臭いマネはできんはずだ! 男ってのは、悲しい生き物よ。なんか、ホントに話が進みませんな。

 さあ、まずはノートパソコンを買いましょう! で、ご予算をお聞きしましたところ、どうやら、スポンサーは、その七十すぎのジジイ…… もといおジイさまらしく、ジイさまがぼくに、三十万円でなんとかしてくれと言いました。五年前ならいざ知らず、デフレスパイラルの昨今、三十万もあれば、ノートパソコンとプリンタを揃えるなんて楽勝でしょう。

 と、思ったら、そのジイさま。デジカメも欲しいと言い始めやがって……

 コホン。デジカメもほしいとご希望でして、そうですか、デジカメで彼女のプリティなショットをモノにしたいと。そういう魂胆ですか。少し頭痛がしてきましたが、まあ、それでも三十万で問題ないでしょう!

 とはいえ。ぼくもいま、どんなノートパソコンが売ってるのかよく知らないんで、まずは店内を偵察です。先生とボーイフレンドのジイさまが、ぼくのうしろをカルガモみたいについてくる姿は、なんか孫が祖母と祖父にパソコンを買ってあげるって感じの図ですな。

 ん? 孫って年でもないか、ぼくも(苦笑)。

 ざっと見て回ったところ、値段的には、安いもので16万前後からあるようです。先生方は(のちに、ボーイフレンドも、もと学校の教師であることが判明)、液晶画面の大きい機種をご希望なので(小さい文字ははよく見えないそうです)、当然A4ノートから選ぶことになるのですが、液晶が14インチと15インチがあるんですね。ま、これはどっちでもいいでしょ。ただひとつ、マイクロソフトのオフィスが入ってることが絶対条件ですね。安いの買って、ワープロも入ってないなんてことになったら大変です。

 で、オフィスXPがインストールされた機種だと、18万ぐらいからあるみたいですね。このぐらいの機種でよかろうと判断しました。20万以上のパソコン買ったら予算的にキツイし、そこまでの性能は必要ない。と、勝手に判断してみました!

 メーカーは、ソニー、NEC、富士通の3社からチョイスです。定番メーカーですな。ぼくが自分のノートパソコンを買うなら、IBMも候補に入れますが(というかIBMを買うでしょう)、あの赤いぽっちのトラックポイントは、初心者には向かないと、ここでも勝手に判断してみました(ホントに勝手だな)。

 まあ、この3社を候補にしたのは、似たような価格帯に、似たような機能の機種が揃ってるからです。あとはデザインの好みだけで選んでもらえばオッケイってのが楽だなと思ったのでした。

 で、どれがお好みですかと聞いたら、どれでもいいって言われちゃった。どれでもいいって、そりゃまあそうだけど(苦笑)。

 まあ、そうおっしゃらず、どれ買っても一緒だけど、もう一度よく見て、好きなデザインを選んでくださいな。と、お願いしたところ、やや真剣な顔で(でも、やっぱり興味なさそうに)、じゃ、これでいいやと選んでくれたのが富士通でした。よかったね富士通さん。シルバー世代に受けたよ。来るべき、いや、もう来てる高齢化社会。ジイさまとバアさまに受けたんだから、富士通の未来は明るい。え? 今期も大幅な赤字? あ、そうですか。

 では、決定した機種をご紹介。


FMVNB89DR

900MHz モバイル AMD Duronプロセッサ

標準256MB[128MBオンボード]/最大384MB(SDRAM/100MB)

ATI RAGETM Mobility-EC AGP接続 4MB(SDRAM)

14.1型液晶

30GB(UltraDMA/66)

CD-R/RW
(CD:読出最大24倍速, 書込/書換最大8倍速)
バッファアンダーランエラー防止機能



 どうよ。これなら悪くないでしょ。DVDが見れないのが玉にきずですが、まあ、バアさまとジイさまは、そんなモノ見ないと勝手に判断させていただきました。じゃあ、CD-Rは焼くのかという疑問もありますが、WindowsXPは、標準でCD-Rが焼けるそうなんで、バアさまとジイさまでも使えるだろう、たぶん、おそらく、パーハップス。と、若干の不安を感じつつ、やっぱり勝手に判断してみました。

 ジイさまが、ヨドバシのポイントカード出してノートパソコンのお金を払ってる間に、ぼくはデジカメのことを考えてました。いま、二十万弱使ったから、このあと三万円前後のプリンタを買うとして、デジカメに7万円使っても三十万円に納まる。七万円前後のデジカメといえば、かなりいいのが買えますよね。メーカーも力を入れてる機種が多い。

 けど、ぼくは考えた。

 そこまで必要か? 7万円ぐらいだと、400万画素ってデジカメが買えちゃう。でもさあ、そんなに画素数多くてバッチリ写っちゃったら、先生のお顔のシワシワも……

 ゴホン。先生ってば、ちょっとお肌が曲がり角に差しかかってらっしゃるから、そんなに鮮明に写らない方がよろしい。ガールフレンドは、きれいに撮ってあげなきゃ、彼氏!

 冗談はさておき。通常は200万画素もあれば十分です。これホント。カメラマンの意見を信じましょうね、みなさん。200万画素だと、4万円以下で買えます。断然お得。

 そこで、ややマイナーなサンヨー製のDSC-MZ1を選んでみました。サンヨーなんてマイナーに聞こえますが、侮ってはいけない。この機種は(専門的な話だけど)一画素の大きさがデカイ、なかなか優れたCCDを採用していて、200万画素機の中では、とってもきれいに写るんですよ。まあ、カメラマンとしては、レンズの位置が悪くて、ちと持ちにくいなあとも思わないでもないですが、コストと性能のバランスがいいのは間違いない。と、思う……(やや、自信なし)。





 さあ、ジイさん! こいつに128メガのメモリーを買えば、もう無敵だぜ、彼氏! ガールフレンドの写真を、バシバシ撮れるぜ! かーっ、うらやましいね! これで、来年のバレンタインデーのチョコはバッチリだね!

 え? おはぎの方が好き?

 ともかく。デジカメは買った! 128メガのメモリーも買った! いよいよ最後は、一番箱のでかいプリンタだ!

 ジイさまは、デジカメで撮った写真を綺麗にプリントしたいと主張してますが(気持ちはわかるけどね)、経験上、写真なんか、ほとんど印刷しないもんですよ。ふだんは、テキスト文章が主になるはずです。

 あ、ここでちょっと説明。じつは先生(バアさまの方ね)、学校の先生はリタイアしてますが、ボランティアで登校拒否児童の相談をやってるそうです。それに必要な書類を作るのと(ここで、以前はワープロ専用機を使っていたことが判明して、少しホッとしたりして)、外国にご友人がけっこういるので、電子メールをやりたかったのが、パソコンを始めたい理由なんだそうです。

 となれば、いよいよ、テキスト主体の書類を印刷する機会の方が多いはず。写真画質にこだわったプリンターは値段も高いし、テキストがきれいじゃないんですよね。じつは写真画質のプリンターって、写真が美しく印刷できるように、黒インクの濃度が低いんですよ。その点、テキストを主体にしたプリンタだと、黒インクが水性ではなく、顔料(カーボン)系なので、クッキリスッキリ、普通紙にもにじみが少なく印刷できます。

 詳しいでしょ? じつはね、プリンタにはうるさいんです、ぼく。むかし、写真画質のプリンタ買って、大失敗したという経験があるんで(苦笑)。

 と、以上の理由で、キヤノンのBJS700という機種を勧めました。値段は2万4千円ぐらい。ちょっと高めだけど、この機種だと、写真もそこそこきれいなんですよ。いえ、店頭の印刷見本を見ただけですが(苦笑)。でも、印刷見本を見る限り、感覚的な意見だけど、二、三年前に写真画質! と、威張ってたプリンタと同じぐらいの写真は印刷できる気がする。その上、印刷スピードが早いらしい。A4一枚、何秒って単位で印刷できるようです。これはポイント高いですよ。なんてったって、使うのはバアさまとジイさまですからね。彼らには、印刷をのんびり待ってる時間は残されていないのだ! 残された人生は短い!

 おい…… 怒られるって、そんなこと言ったら(苦笑)。





 んで、接続ケーブルとか、細々したものを買って、最後の支払いのとき、ノートパソコンとデジカメで溜まったポイントで、プリンタが買えたと、ジイさま喜んでおりました。よかったねえ。けっきょく、消費税入れて、24万円以下に納まった。ノートパソコンと、デジカメと、プリンタを買ったにしては、なかなか安いではないか。余った分、ぼくにください。

 えーと、冗談はともかく、お昼はおごってもらいましたよ(笑)。安く上がって気をよくしたボーイフレンドが、ステーキでもなんでも食えと言ってましたが、スパゲッティーでいいです。

 さて。新宿でスパゲッティーを食べたあと、プリンタのでかい箱はぼく、ノートパソコンの中ぐらいの箱はボーイフレンド。デジカメのちっちゃい箱は先生が持って、電車に乗って、彼らの愛の巣に向かいました。

 っていうか、お宅はどちらですか? え? 埼玉のちょっと手前? と、遠いですね。ぼく、今日中にお家に帰れるかしら…… ぐすん。

 そんなこんなで、あと一歩で埼玉というところで電車を降りて、タクシーに乗って、お宅にお邪魔しました。

 おじゃましまーす! わお。いいお家ですねえ。ほう。築38年ですか。そーですか。ぼくの生まれる前から建ってるんですねえ。いえ、ホントに、きれいに整理されてて、住みやすい感じのお宅でしたよ。先生方のお人柄が偲ばれますな。

 さあ、パソコンのセットアップ! WindowsXPなんて触るの初めてだけど、なんとかなるでしょう。おおむね、「次へ」とか「OK」とかのボタンを押してくだけで完了しました。楽ち〜ん。インターネットの契約も、この場でやっちゃおう。ニフティにオンラインサインアップ! サクッと終了。メーラーの設定もやっておこうと思ったら、サインアップが終わった時点で、メーラーの設定もぜんぶ、自動的に終わってました。というか、設定までぜんぶ済ませてくれるソフトが入ってて、それを使ったんですけどね。簡単になったもんだなあ。むかしインターネットを始めたころ、POPサーバーとか、SMTPサーバーとか、わけがわからず思い悩んだ日々はなんだったんだろう。

 よし、プリンタもつなげよう。えーと、プリンタにUSBケーブルつなげて、パソコンにもつなげて…… げっ、このパソコン、ノートのくせに、USB端子が四つもついてるじゃんか。生意気! ぼくのパソコンなんか、でかいくせに、二個しかついてないぞ!

 って、そんなこたあ、どうでもいいのでした。ええと、パソコンにドライバCD入れて、セットアップボタン押して、その間にプリンタの電源を入れると、自動的に認識されて、なんだか、画面に勝手にメッセージが出たり消えたりしながら、いつの間にか、プリンタのセットも完了。簡単だなあ……

 ちょいと、ためしに印刷してみますか。適当にドキュメントをコピーして、ワードにペーストして、印刷。

 うわっ! あっと言う間に、一枚印刷されました。マジで、このプリンタ早いわ。すげえ。欲しくなっちゃったよ(苦笑)。

 ここで、先生がコーヒーをいれてくれたので、ちょっと作業中断。んー、デジカメはどうしようかな。ま、これはボーイフレンドのだから、どうでもいいや。後回し。年齢、社会的地位に関わらず、ぼくは男に興味はないのだ。

 コーヒーをいただいてる最中に、ボーイフレンドのジイさんが、四十年前の話を始めたんで、やべえなこりゃと思ったんですが、本当に止まりません昔話。いえね、ぼくもコソコソ小説なんか書いてますから、昔の話は参考になりますよ。でも、いまはそんな話を聞いてる場合じゃないのですよ。ところが、ジイさんは止まらない。さらに趣味の油絵に話は飛び火して、やっと話が終わろうかというころ、1960年に買ったという、ポケットコンピュータを、持ち出してきたのでした。

 ちょっと待て。1960年? いまから42年前か? その時代に、ポケットコンピュータなんてあったか? いや、さすがに生まれてないんで知りませんが……

 ジイさまが持ってきたのは、カシオの関数電卓みたいなコンピュータでした。液晶表示部分に、英語が表示される…… って、42年前に、液晶なんてあったのかよ! そのコンピュータの裏には、シールが貼ってあって、そこに購入した日付が書かれていました。マメだねジイさん。それを見ると、たしかに、60年と書いてある…… でもさあ、こりゃ西暦じゃなくて、和暦だね。昭和だよ。昭和60年。

 あー、時間を無駄にした。

 ではレクチャー開始! まずは先生に、パソコンの立ち上げ方からお教えしました。ノートに(紙のだよ)、逐一メモってもらいながら、教えていく。

 はい、いいですか。ふたを開けたら、ここのボタンを押しましょうね。はい、よくできました。ではWindowsの終了の仕方をお教えしましょう。え? Windowsってなに? うっ、そ、それは、話すと長いお話なので、気にしない気にしない。そんなこと聞いてるうちに、年取っちゃいますからね。はい、スタートメニューに、その矢印みたいなのを動かしましょうね。うまく動かない? 慣れですよ先生。何事も忍耐です。違う違う、上ってのは、文字の上ですよ。そこは壁紙です。お。できたじゃないですか。えらいえらい。さあ、そこで左のボタンを押しましょうね。はい、そしたら、終了メニュー(だったかな?)の上に矢印を動かしましょう。あら、もう慣れてきましたね。さすが。はい、左ボタン。これで、終了を選びましょう。

 はい、よくできました! それでは、あとはマニュアル読みながら、自分で勉強しましょうね! では、さようなら!

 って、マジで帰りたいよ、オレは! 簡単に書いてますが、じつは、ここまでくるのに、セットアップより時間かかった。前途多難。

 気を取り直して、電子メールの使い方を教えよう。はい、先生。では、もう一度パソコンを立ち上げてみてください。え? 忘れた? 五分前にやったことですよ? 五年前じゃないですよ。五分前。そ、そうですか。お忘れになりましたか…… なんでもシャキシャキこなす先生ですが、なぜかパソコンの前に座ったとたん、ボケ老人…… ゴホゴホ。物忘れが、ちょっと激しくなられますね。ははは。いいんです。もう一回最初からやりましょうね。ほら、ちゃんとメモったノートを見て。ここに書いてある…… っていうか、ご自分で書いたんですよ。ボーイフレンドのジイさんが、後ろで、そこじゃないよ。そうじゃないよ、とかゴチャゴチャ言ってます。うるさい。しかも、このボタンだよと、間違ったことを教えようとしたりして、あんたも似たりよったりじゃ! と、心の中でぼくは叫びながら、もう一度教えました。

 三度目の正直で、やっとパソコンの立ち上げから、Windowsの終了まで覚えてもらったときには、相当疲労してたんですが(ぼくだけでなく先生も)、まだまだ教えなければならないことは沢山あるのだ!

 では、電子メールを立ち上げましょうね。スタートメニューを開きましょう。そこに「電子メール」って入ってます。おお! マウスカーソルを持っていって、左ボタンを押すという法則を覚えましたね! すばらしい。だんだん、見通しが明るくなってまいりました。

 ところで。富士通のパソコンには、ニフティ用(ってわけでもないんだろうが)に作られた独自のメーラーが入ってるみたいです。だって、どう見てもアウトルックじゃないんだもん。これはどうしたもんかなと、ちょっと悩みました。もし、先生たちが、どこかの本屋でパソコンの本を買ってきたら、たぶん、アウトルックの使い方ばっかり載ってると思うんですよね。独自ソフトっていうのは、わかんなくなったときの情報量が少ないからマズイかなあ……

 と、思ったんですが、一分後には、考え方変わりました。独自ソフトなら、ウイルスに感染する可能性も低いだろうし、第一、富士通に電話して教えてもらえるジャンかと。そうだよ。本なんか買うより、富士通に電話する可能性のほうが高いだろうから、いや、ぼくに電話してくる可能性の方がもっと高いけど(涙)、とにかく、メーカーがデフォルトで用意したソフトを使う方がよさそうだ。

 というわけで、デフォルトのメーラーをそのまま使います。これがまた、えらく簡単なんだ。基本的に「送受信」「メールを書く」「返信する」「アドレス帳」という、四つのボタンだけで構成されているといっていい。メニューの中を見ると、フォルダの振り分けとか、最近のメーラーに当たり前についている機能もあるので、その気になれば、ちゃんと使えるメーラーです。

 ま、とにかくいまは「メールを書く」ボタンさえ使えればいい。さあ、先生。そのボタンを押してください。

 ちがーう! 液晶の画面を押してどうする! マウスカーソルを上に持っていって、左クリックです!

 そ、そうか…… このボタン、ちょっと銀行のATMの「入金」ボタンに似てるな。なんだか、あまりにお約束すぎて、ドリフのコントを見てる気にもなってきますが、気を取り直してがんばりましょうね。ちなみに、気を取り直すのはぼくだけですが。

 メールの書き方を一通り教えて、送受信を教えて、返信までは教える気力がなくて(というか覚えられない)、電子メールは、いったん終了。

 次はワープロだ! ああ、不安。

 オフィスを立ち上げます。ワードを直接立ち上げる方法を教えるべきか、それとも、「オフィスドキュメントの新規作成」および「オフィスドキュメントを開く」ってダイアログから開く方法を教えるかしばし悩みましたが、「オフィスドキュメントの新規作成」から立ち上げる方法を採用しました。だって、マイクロソフトって、いかにも、そうしてください。って言いたげだと思いません?

 ここでも、似たような苦労があったのですが、ホント、苦労の繰り返しなだけなので、説明は割愛します。とにかく、ワードを立ち上げて、日本語打って、ちょいと文字の大きさを変える方法とか教えて、それを印刷してみて、一連の操作に、先生は目を回しておりましたが、それ以上に、こんなすごいことができるのかと感動してらっしゃいました。

 本当は、もっとすごいこともできるんですが、まあ、正直にいうと、ぼくもこれ以上はよくわからないのでした。ははは。ちなみに、エクセルの使い方は省略。先生が、あと五十歳若くても、これ以上詰め込むのは無理でしょう。とにかく、ワードを何度か反復練習してもらって、いよいよ、ボーイフレンドのデジカメです。憂鬱だ……

 デジカメの説明書を見ていたら、WindowsXP用のドライバが入っていなくて、ちと焦りました。Windows2000用を入れちゃえばいいのかなあ…… うーん。どうしよう。動かなかったら責任問題かも。と、冷や汗が出かけたころ、説明書の一角に、ちっちゃくWindowsXPでは、ドライバのインストールは不要と書かれていて、ホッとしました。さすが最新のOSじゃ。ドライバなんていらないのね。

 で、そのままUSBで繋げてみましたところ、カメラをPCとの接続モードにしたとたん、パソコンの画面に、ウィザードが出現!

「だからさ、あんた、これからなにをしたいわけ? そのデジカメの画像をパソコンにコピーしたいの? それとも印刷したの? オレも忙しいんだから、さっさと決めてくれや」

 と、そんなようなことが書かれた画面が出たのです。こりゃすごい。これがぼくのパソコンとデジカメだったら、こんなお節介な画面が出て来ないようにする設定をすぐに探すところですが、使うのはジイさまだ。便利じゃん。

 さあジイさま! この画面の指示に従いなさい!

 このあとは、まったく、簡単でした。ウィザードの指示に従ってコピーを選ぶと、ダーッと画像が、マイドキュメントの中のマイピクチャーに転送されて、転送が終わると、そのマイピクチャーのウィンドウが、ドンと開いて、サムネイル表示されている(正確には、ぼくがサムネイル表示になるように設定した)ファイルをクリックすると、大きくプレビューされて、そのプレビュー画面にある印刷アイコンをポチッと押すと、印刷が始まって、はい終わり。ここでも、キヤノンのプリンタの印刷スピードに驚かされたぼくですが、ジイさまは、驚きすぎて腰抜かしてました。いや、そりゃ大げさですが、かなり驚いていた様子。そりゃそうでしょうなあ。ワープロ専用機じゃ、こんなことはできない。マジで、プリントの画質も悪くないですよ(そりゃ、写真画質とかいうプリンタには負けますけどね)。

 よかったねえ。これで、ガールフレンドの写真、撮りまくりだぜ。このとき、そのガールフレンドである先生が、コーヒーのお代わりを持ってきてくれたので、彼氏より先に、ぼくが先生の顔をパチリ!

 そいつを印刷したら、先生ってば、いや〜ん、恥ずかしい、消して消してと、慌てておりました。なんか、女学生みたいですな。ははは。まあ、あとはボーイフレンドと、よろしくやっておくんなさい。ほほほ。お邪魔虫は、そろそろ、おいとましますわ。

 っていうか、マジで帰りたいです。だって、もう八時過ぎてるし……

 ところが、ジイさまとバアさまは、ぼくを開放してはくれず、じゃあ、これから食事でもと、歩いてすぐの和食のレストランに連れて行かれて、寒いのにビール飲まされて、いや、御馳走になったのでした。

 食事も終わり、やっと開放されました。お宅は駅からかなり遠いので、タクシーを呼んでもらって、そのとき先生が、お年玉の袋みたいなのに入った「お車代」をくれました。ああ、うれしい。ちょっとは報われたかしら。

 駅について、タクシーの運ちゃんに1,300円ほど払って、領収書もらって、駅のホームの喫煙場所でタバコに火をつけながら「お車代」の中身を確認すると、中には2,000入ってました。

 ほ、ほんとにお車代なのね……

 一瞬、唖然としましたが、年金生活者に、なにを期待してたんだかと、ちょっと自分を恥じながら、苦笑いなんか浮かべてみた、冷たい雨の降る日曜日の夜でした。

 でも、疲れたよーっ!


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