ギルガメシュ登場!




 ひっさしぶりに、神話のエッセイでも書いてみるか。と、思い立ってしまったので書きます。今回は、なんとメソポタミアの神話。

 なんでメソポタミア? じつは最近、一神教であるイスラムが定着する前の、アラビアの神話を調べてるんです。イスラム教になる前のアラビアは、ほかと同じように多神教だったんですよ。ぼくはねえ、多神教が大好きなんです。神様は多いほどおもしろい。ところが、アラビアの古代の神話って、あんまり資料がないんですよね。困っちゃうなあ。どなたか、いい本知りません?

 と、それはともかく。アラビアと言えば、メソポタミアでしょう。いまでいうイラクあたりが発祥地ですからね。ちゅうわけで、原点でもあるメソポタミアから、初めてみようと思ったわけです。いや、正確には、アラビア半島とイラクは別の文化圏。イラクは、ペルシャと言うべきですね。この地域の歴史も非常におもしろいですよ。なんてったって、アラビアン・ナイトの国。もし、お知りになりたければ、掲示板かメールでお知らせください。エッセイ書きます。

 なんか、脱線しすぎだな。話を戻します。

 メソポタミア。いくらなんでも、みなさん知ってますよね? ティグリスとユーフラテス河に挟まれた、豊かな土地に栄えた、世界最古の文明の一つです。昔から乾燥してるところですが、土地自体は豊かで、ちょいと水をまけば、作物がよく育つ。世界で初めて農業が発明されたのも、このメソポタミアの地ですね。

 さてさて。古代メソポタミア文明の、最初の主役と言えるのは、シュメール人。彼らは、紀元前三〇〇〇年ごろ、くさび形文字を発明して、高度な文明を発達させました。その後、シュメールは徐々に勢力を伸ばしてきたアッカド語を話すセム系民族に滅ぼされちゃうのですが、セム系民族は、シュメール人から、くさび形文字はじめとして、多くの文化を引き継ぎました。吸収したというべきか?

 あ、セム系民族ってのは、「セム語」といわれる言語体形の言葉を話す人たちの総称です。いまで言うと、アラビア人とかエチオピア人とかユダヤ人とかとか。

 そんなわけで、メソポタミアの文化の担い手は変わっていくわけですが、彼らセム系民族は、かの有名な「バビロニア」と「アッシリア」を作ったのですよ。まさに、メソポタミア文明の黄金期を作り出した人たちですね。この二つの地域が、非常に強大だったため、彼らの残した神話(もとはシュメール人の神話)は、周辺のシリアや小アジア、パレスチナ(カナン)、イランなどに伝わり、ギリシャ神話にも、大きな影響をおよぼしてます。さすが、世界最古の文明じゃ。

 ちなみに、「バビロニア」と「アッシリア」は、正確に言うと地域名です。バビロニアは、ティグリス・ユーフラテス河の下流地方で、アッカド王国、ウル第三王朝、バビロン第一王朝、新バビロニア王国など、世界最古の都市国家が栄えました。アッシリアの方は(アッシールとも言う)、ティグリス河の上流地方を差します。ここには、アッシリア王国が栄えました。アッシリアは、古代オリエント最初の世界帝国ですね。

 バビロニアとアッシリアは、同じく世界最古なのですが、都市国家と帝国という違いがある。アッシリア人は好戦的だったんですよ。他国を攻めて占領していったんです。だから、アッシリアは「帝国」になったのです。

 これにはおもしろい説があって、バビロニアが隣接する、ユーフラテス河は、流れがゆるやかで、上流と下流での国家間の交流がけっこうあった。河がゆるやかだから、船が出しやすかったんですね。交流があるってことは、当然、貿易が行われていたわけで、文化的な共通性も高くなる。つまり、友好的な関係を維持してたってことです。

 ところが、アッシリアのあるティグリス河は、流れが急で、船が出せない。自然、国家間の交流は少なく、文化的にも違いが大きい。こういう民族同士がひとたび出会えば、戦争が始まる。というのは、古代に限らず現代でもよくある話です。

 さて。これから語る神話は、主に穏健だったバビロニア人が残してくれたものです。

 では、非常に大雑把な歴史がわかったところで、いよいよ、いってみましょう、メソポタミアの神話の世界へ!

 おっと、その前に、一言お断りを(肩すかし)。

 ええと、これから語りますメソポタミアの神話は、古代アッカド語で書かれた、粘土板に記された物語です。本来、この手の物語を紹介する場合、この粘土板に記された文章の長さとか、行の順番とか、とにかく、出来うる限り正確に「翻訳」するのが正しいわけです。ぼくが主に参考にした、ヘンリエッタ・マッコール著/青木薫訳の『メソポタミアの神話(丸善ブックス)』も、その正確性を守って書かれています。

 が。

 正確に書かれたヤツをそのまま読みますとですね、おもしろくないんですよ、あんまり。まあ、相手は世界最古の文明、それも、遠く離れた地の物語ですからね。現代の日本人が読んでも、おもしろくなくて当然と言えば当然。いや、ストーリーは、なかなかおもしろいんですが、言い回しまで古代人の書いた物のままじゃ、ちょっとね。べつに、研究しようってわけじゃないし。もち、研究には正確さが大事ですよ。独特な言い回し(同じ言葉を何度も繰り返すとか)が、当時の文学を現しているわけですから。

 でも、このエッセイは研究じゃないので、「読みにくく」する必要もないでしょう。ぼくは、正確さよりも、ストーリーを重視して書きます。つまり、いつも通り、バリバリの意訳。ですが、「筋」は、オリジナルに忠実に書きます(ただし、諸説ある場合は、ぼくの好きな説を優先)。ですから、このエッセイを、メソポタミアの神話として覚えていただいて大丈夫。ぼくが勝手に作った嘘は書いてません。例によって、学校のテストに出たときは保証しませんけどね。(すまんね、学生の諸君、頼りにならないエッセイで)

 もう一つお断り。

 この手の物語は、非常にバリエーションが多いです。「ギルガメシュ叙事詩」も例外ではなく、シュメール人の記録と、アッカド語で書かれた粘土板では、ちと違うし、時代が下ってエジプトとかで書かれたヤツでもまた違う。だから、お話の筋とか、神様の名前とか、みなさんが、ほかで読まれたものと違うかもしれませんが、その可能性が濃厚なところは、そのつどエッセイの中で触れます(出来うる限りね)。

 ふう。お断りはこのくらいかな? 最近、けっこうたくさんの方に読んでいただいてるので、下手なこと書けん。ぼくも勉強してるんです(笑)。

 じゃ、いってみましょう。

 まず最初。メソポタミアの神話と言えば、だれでも、その名だけは聞いたことがあるだろう、かの有名な「ギルガメシュ」を上げねばならんでしょう。ああ、やっと、このエッセイのタイトルに到達したよ(笑)。

「ギルガメシュ叙事詩」知ってるでしょ? 旧約聖書の「ノアの方舟」や、このエッセイでも書いた、ギリシャ神話の「オデュッセイア」も、この「ギルガメシュ叙事詩」を原形にしていると言われてます。さすが、世界最古の文明じゃ(しつこい)。

 ギルガメシュ。これは人の名前です。そう。「ギルガメシュ叙事詩」は、ギルガメシュという男の冒険物語なんですね。でも、彼は人間じゃありません。神話だから神様? それも違う。彼はハーフなんですよ。ヘラクレスみたいだな(彼はゼウスの子)。しかし、ギルガメシュは、父親ではなく、母親が神様。ニンスンという女神です。お父さんは人間で、ルガルバンダという王様。一応、これが叙事詩に書いてあるギルガメシュの家系です。でもね、シュメール人の残した王名表によると、お父さんは、クルラブという、高官だったとも…… まあ、早い話、諸説あるってことですね。神話の解釈にはよくあることです。わからんことが多い。別の文献では、ギルガメシュは三分の一が人間で、三分の二が神様ってことになってますが、もう、いいかげんにしてって感じなので、このエッセイでは、ギルガメシュは、ハーフに決定!

 さて。ギルガメシュくん。彼は「ウルク」という名の王国の王様として登場します。ウルク第一王朝の王様。紀元前二六〇〇ごろです。お父さんが王様だったので、そのあとを継いだんですね。物語はそこから始まる。

 いや、ホントは、ギルガメシュ王の功績ちゅうか、業績が称えられるところが粘土板に記されている最初なんですが、それは、ストーリーじゃなく、事柄の羅列って感じ。ギルガメシュは、城壁を作ったとか、イシュタル神(この神様のことはあとで書く)の神殿を作ったとか。冒険物語は、この羅列が終わったあとに始まります。

 さて、ギルガメシュくん。彼ってば、いきなり暴君です。いやはや、とんでもない男ですよこいつ。だってね、王国の女は、ぜんぶ自分のモンじゃ! と、決めて、若くて強い男は、みんな城壁とか神殿の建築に駆り出しちゃいました。つまり、国からライバルになりそうな男をぜんぶ追い出して、女の子を独り占めにするという、とんでもないことをやらかしたわけです。

 バカかおまえ!

 そりゃ、神様とのハーフだから、精力絶倫なのかもしれないけど、女の子ぜんぶ自分のモノにしたら、生まれてくる子供、ぜんぶおまえの子じゃんか! 国が滅びるだろうに、そんな簡単なこともわからんのかい!

 と、怒鳴りたくなりますが、わからないのです、ギルガメシュくんは。勝手にしなさいって言いたくなりますが、そうもいかない(エッセい終わっちゃうよ)。

 はい。怒りました住民が。そりゃ耐えられませんよね。いくら王様だからって、やっていいことと悪いことがある。あ、だから暴君か。

 さて。怒った住民たちは、このバカ殿さまをやっつけるために、神様の母親といわれている、アルルって女神さまに、お願いをします。

「アルルさま! どうかギルガメシュをやっつけてくれる、男を作ってください!」

 なぬ? なんか真正直な人たちだなあ。正攻法かい。ぼくだったら、ギルガメシュの食事に毒でも混ぜて暗殺するけどなあ。みなさんも、そう思いません?

 ま、それはともかく。

「あいわかった」

 と、アルルさまが応えたかどうか知りませんが、彼女はさっそく手を洗って(なぜ?)、粘土をちぎると、それを平地に投げます。すると、その粘土は屈強な男に変化したのでした。だれがつけたか彼の名は「エンキドゥ」。どうでもいいが、変な名前のヤツばっかじゃのう。覚えにくくていかんわ。まあ、鈴木くんとか言われても困るが……

 ここから、少しばかりヘンリエッタ・マッコールの著書から外れ、べつの文献の仮説を加えます。なにせ、ヘンリエッタ先生の本ったら、正確なのはいいけど、正確すぎておもしろくないんだもん。

 えーと、ヘンリエッタ先生の御本では、生まれたばかりのエンキドゥに、いきなり遊び女が(娼婦)あてがわれますが、なんで娼婦がいきなり登場するのよ? と、こっちもいきなり疑問が浮かびます。まあ、粘土板にそう書いてあるんだから、ヘンリエッタ先生の責任じゃないけど、ストーリー性がないのは困る。

 というわけで、今度は、角川書店の『世界神話事典』の著者の一人である、渡辺和子先生(なぜか、女性の先生ばっかね)のご説を加えましょう。

 住民がアルルさまと計って、自分を倒す男を作ったと知ったギルガメシュ。この男、暴君なだけあって、やることがセコイ。なんと、生まれたばかりのエンキドゥに、娼婦をあてがって、骨抜きにしようとします。(うまい、渡辺先生! そういうわけで、娼婦が登場するんですね! 女好きのギルガメシュらしい、姑息な手段ですな!)

 ギルガメシュの策がうまくいって、エンキドゥは、その遊び女に魅了され、六日七晩をともに過ごします。もちろん、男と女がやる、一番楽しいことやりまくる。すると、エンキドゥの力は弱まり、前のように速く走れなくなっちゃう。

 哀れエンキドゥ……

 と、思うなかれ。なんとエンキドゥは、力が弱まった代わりに、「知恵」を身につけたのでした。そりゃ、粘土から作られた男ですからね。最初は、本当に「野獣」のようなヤツだったんですよ。野を駆け回るだけの。それが、遊び女との情事で、すっかり、人間らしくなっちゃった。セックスすると、頭が良くなるの? という疑問(期待?)は、ゆめゆめ持たぬように、学生諸君。ふつうは、そればっかやってると、バカになります。これ、あくまでも神話の話だからね。しかも世界最古のだよ。

 なんか、脱線するなオレ。話を戻そう。

 知恵を身につけたエンキドゥに、遊び女が言います。

「エンキドゥ。あなたは賢くなりました。神のようになりましたよ。そんなあなたが、どうして獣たちと、野をうろつく必要がありますか? さあ、わたしと一緒に、ウルクの街にいきましょう。そこは、アヌとイシュタルの住まわれる聖なる場所です。そして、ギルガメシュが、強い力を振るう街。彼は人間より、ずっと強い力を持っています」

 よっしゃ!

 と、エンキドゥは、遊び女に答えます。

「ウルクに行って、ギルガメシュに挑戦してやるぞ。野原に生まれた者だって、力で負けないところを見せてやる!」
 すると、遊び女は、あわてて言います。
「だめよ、エンキドゥ! ギルガメシュは、あなたと戦う気はないわ。ただ友だちになりたいと思っているのよ」
「は? なんじゃそれ?」
「ギルガメシュは、あなたと友だちになる夢を見たといってるの。ホントよ」
「アホか。オレがあいつの友だちになるわけないだろ」
 遊び女は引き下がらない。そりゃそうだ。もとはギルガメシュから送られてきた女なんだから。
「エンキドゥ、お願いよ。ギルガメシュと戦おうなんて思わないで。彼は男らしさに溢れ、威厳に満ちているわ。とっても魅力的な人。あなたも、会えばわかる。あの喜びと悲しみの人に」
「悲しみの人だと?」
「そう…… 彼は悲しい人よ。友だちになってあげて。いいえ、ギルガメシュが夢に見たんだから、きっと友だちになるわ。彼は、シャマシュ神に愛され、アヌとエンリルとエアの神々から知恵を授けられたの。その彼が見た夢なんだから間違いない」
「やだ。おまえの頼みでも、それは聞けない。オレはギルガメシュと戦うぞ!」

 悲しみの人ねえ…… なんか、やっとマトモな物語になりそうな予感。と、いうところで、最初の粘土板は終わってます。

 あ、ちなみに、粘土板は12枚見つかってます。11枚までが、正規の「ギルガメシュ叙事詩」と呼ばれてて、最後の1枚は、後年に、別の作者が書いたものらしいです(この話は、最後に書くね)。

 失礼。それで思い出した。「ギルガメシュ叙事詩」の作者は、一応、シン・レキ・ウンニニって人です(変な名前)。でもこの人、原作者じゃありません。正確に言うと、編集者。昔からの言い伝えを、編集して「ギルガメシュ叙事詩」って物語にまとめた人です。でも、その功績は大きい。ギルガメシュ叙事詩は、中期バビロニアの時代に(紀元前一六〇〇から一〇〇〇年ぐらい)編纂されたので、シンくんの名は、その功績によって、なんと3,600年以上もの時を経て残ってることになる。すごいね。

 また脱線しちゃった。2枚目の粘土板にいこう。

 2枚目は、いつものように女のところから帰ってくるギルガメシュを、エンキドゥが待ち伏せしてるところから始まります。いよいよ、対決だ!

 ええ。戦いましたよ。戦いましたとも。でもね、激しいアクション小説を期待しちゃいけない。それどころか笑っちゃいますよ、この戦いの結末。なんとこの二人。お互い一歩も引かぬ取っ組み合いのケンカをしているうちに、友情が芽生えてしまう。青春だなあ。

 スポコンかい!

 スポコン。かって、70年代80年代に流行った、スポーツ根性もの。アニメじゃ巨人の星ですか? テレビドラマじゃ、森田健作が出てたようなヤツですか? ま、いまでも少年ジャンプの漫画とかにありそうですな。最近、漫画ってほとんど読まないから、よく知らないけど。

 しかしですね。わずか二十年ぐらい前の現代日本でも流行ったテーマが、四、五千年前の神話に書かれていたことが驚きですね。そのころの日本って、縄文時代ですよ、縄文時代。まだ竪穴式住居に住んでたんですよ(正確には、弥生時代との狭間ですが)。

 スポコン。こいつは、時間と人種を越えた、人類にとって普遍的なテーマだったんですね。すごいなあ。知らなかったなあ。スポコンに、こんな長い歴史があったなんて。と言いますか、人間って、どいつも同じっていうか、進歩しないっていうか(苦笑)。

 まあいい。友情が芽生えちまったものはしょうがない。ありがちすぎる展開ですが、ぼくの責任じゃないよ。

 さて。友を得たギルガメシュは、暴君じゃなくなります。すっかりナイスガイ。残念ながら、「ギルガメシュ叙事詩」には、あっさりとした描写しかないので、ギルガメシュの心境の変化は知る由もないのですが、遊び女が彼を「悲しみ人」と呼んだのが、キーワードでしょう(あれ、ぼくの創作じゃなくて、ちゃんと書かれてるんですよ)。

 つまり、こういう解釈が出来る。ギルガメシュの周りには、イエスマンしかいなかった。自分に意見してくれる人がいなかったのではないでしょうか? 「友を得る夢を見た」というのも、それを示唆してますね。彼は孤独だったんですよ。だから、女遊びに走ってしまったんですね。孤独な心のすき間を埋めるために。なるほど、そうだとしたら、遊び女が言ったように「悲しみの人」でしょう。また彼女はギルガメシュを「喜びの人」とも呼んでますから、本来は、明るい性格の持ち主だったのかもしれません。どうです? ぼくの解釈。たぶん、間違ってないと思うんですけど。

 ですが、ここでは、もっと学術的な話しもしておかないといけません。じつはですね、「対立するもの」が「友人になる」ってのは、古くシュメールの時代からの伝統文学なんですよ。シュメール人の大衆娯楽に、「対話形式」というのがあって、人ではなく、「牛と馬」とか「夏と冬」とか、それぞれに対立するような関係を擬人化して、自分の立場を主張して楽しむわけです。そして最後は、神に判決を出してもらって、両者がそれを受け入れ友人になるって文学形式(遊びのルール)だったらしいです。シュメール人って、すごくインテリジェンスですね。ディスカッションの原形でしょうか?

 とまあ、ギルガメシュとエンキドゥの関係も、こういう文化的な下地が合って出来上がった物語だと思うんですが、仮説を積み重ねすぎると、真実からどんどん離れていく危険があるので、勝手な想像はこの辺にしておきましょうね。

 ナイスガイになったギルガメシュは、やっとヒーローらしいことを始めます。当時、杉の森の番人だった恐ろしい怪獣(巨人)、フンババを倒しに行こうと思い立ちます。このフンババ、叙事詩の古い版によると「フワワ」というカワイイ名前です。妖精みたいですね。これじゃ怖くないので、ぼくはフンババの方を採用。

「なに、フンババを退治するだって!」
 すっかり友だちになったエンキドゥが驚きます。
「おい、ギルガメシュ。そいつはやめた方がいいぜ。フンババは恐ろしいバケモンだ。その叫び声は洪水。その言葉は火。その息は死だ。オレたちでも倒せるかどうかわからん」
 彼は、野原で生まれたので、フンババのこともよく知っているのでした。
「そうか」
 と、ギルガメシュ。
「やはり、相当な怪物なんだな。だとしたら、よけい野放しにしておけない。ウルクの長老たちに相談してみよう」

 ここでちと解説。メソポタミアの文明は、基本的に砂漠の文明です。森って近くになかったんですよね。だから明るい光の遮られる「深い森」は、彼らにとって神秘的で、かつ恐ろしげな場所だった。そういうことも知っておくと、神話がより理解できますね。

 んで、長老に相談したギルガメシュですが、これは当然反対される。「やめときなはれ」と、関西弁では言わなかったはずですが、とにかく反対された。でもギルガメシュの情熱は冷めない。そこで長老たちも折れて、彼に現実的なアドバイスを授けます。

 というところから、粘土板の三枚目が始まるのですが、このエッセイは次回に続くのです。ああ、そうそう。次回はいよいよ、愛と戦争の神様、イシュタルが登場です。美しい女神さまだけど、こいつがまたクセ者で……

 お楽しみに!


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