アーサー王Q&A


 いままで過去三回にわたり、アーサーとギニヴィアの悲劇を一つの大きな流れとして、この伝説を語ってまいりました。

 ですが、アーサー王物語には、さまざまなエピソードがあります。今回はちょいと趣向をかえて、Q&A形式で、それらのエピソードを紹介してまいりましょう。




Q1

マーリンって「良き魔法使い」って呼ばれているそうですが、じゃあ「悪い魔法使い」もいるんですか?

A1

います。その名はモーガン。名前からは男かと思えますが、なんと女性です。もともとはマーリンから魔法を教わったそうですが、それを悪用して、アーサーの暗殺に精を出したのです。一度も、成功してませんけどね(そりゃ、そうだ。成功してたら物語が終わっちゃう)。しかし問題は、彼女がアーサーのお姉さんだったことですね。困ったモンです。ちなみに、お父さんは違うんです。「異父姉」ですね。



Q2

モーガンって、なんでアーサーを殺そうとしたんですか?


A2

さあ? わかりません。



Q3

ちょ、ちょっと。「わかりません」が答えですか! マジメにやってくださいよ!


A3

だって、わかんないんだもん。わーっ、座ぶとんを投げないで!

ふう…… まいったな。いきなり難しい質問ですね。モーガンは、すごく謎が多いのです。というのは、良き魔法使いマーリンに対して、悪い魔法使いがいなくちゃ、話が盛り上がらないとか、トラブルメーカーが一人ぐらいいないと、話が続かないとか、そんな理由で、後世の人が、勝手に伝説に付け加えた登場人物だった可能性があるからです。つまり、キャラ設定がちゃんとしてないんですよねえ。

えーと、一応、いくつかの「説」を書いときますか。まず、モーガンはギニヴィアの侍女だったという説。なんで王様の姉さんが、侍女なんかやってるんでしょう? と、疑問に思いますが、この説が、一番有力らしいです。

で、王妃の侍女だったモーガンが、あるとき、騎士の一人と恋に落ちます。それをギニヴィアに叱られたことで、ギニヴィアを恨むようになって、アーサーのことも恨むようになって、最後は、悪い魔法使いになったとか。

うーむ。こんな説のどこが有力なんじゃ?

あるいは、モーガンはアーサーを好きだったという説。こっちは、けっこういいですよ。「侍女説」より、なんぼか、説得力がある。

ええと、モーガンは弟であるアーサーを好きになってしまいました。ま、むかしの人には、よくある話ですな。ですが、アーサーは、モーガンなんか眼中にない。そこでモーガンは、アーサーを魔法でたぶらかし、見事にベッドイン。このとき出来た子供が、かの悪名高き、モウドレッドです。通常は、モウドレッドは、アーサーのべつの姉、モルゴースとの子供ってのが有力ですが、ここで、ちょいと脱線して、彼女たちのアルファベット表記を見てみましょう。

モーガンは、「Morgan」あるいは 「Morgain」で、モルゴースは「Morgause」です。

かなり似てますね。もしかして、最初は同一人物だったんじゃないですかね。それを後世の人たちが、どこかで取り違えて、別人になってしまったとか。案外、その辺が真相かもしれません。もちろん、ぼくの勝手な想像ですけどね。

と、それはともかく、アーサーと子供まで作ったモーガンですが、それでもアーサーは振り向いてくれない。それどころか、別の男と結婚させられて、ついに、愛情が憎しみに変わってしまった。どうです。こっちの方が説得力ありますよね。少なくとも、ぼくはこの「愛憎説」が好きです。その証拠に、アーサーが死の淵にいるときモーガンが現れて、「ああ…… アーサー。なぜ、すぐにわたしのところに来なかったのです。もう傷が冷え切ってしまっている。まだ温かいうちなら、わたしの魔法で治してあげられたのに」と、嘆いたという話が残っています。さんざん殺そうとしてたのに、憎み切れなかったのか…… いや、最後は愛が勝ったということでしょう。そう思いたい。



Q4

ランスロットって、ギニヴィア一筋のはずなのに、子供がいるんですね。やっぱり浮気したんですか? (浮気と言うべきか悩みますが)


A4

たしかにガラハドという息子がいます。ちなみに美少年です。

ですが、純粋に浮気とは言えません。少なくともランスロットに、ギニヴィア以外を愛するつもりはなかったのです。

というのも、ランスロットがベッドを共にしたのはエレインという女性なんですが、彼女はランスロットが好きで好きで、たまらなかったのです。しかし、ランスロットはギニヴィア一筋。そこでエレインは、魔法使いに頼んで、ギニヴィアに化けたのでした。朝になって、変身の術が解けたエレインを見て、ランスロットは、むちゃくちゃショックを受けます。ギニヴィアだけに愛を捧げるつもりだったのに、不可抗力とはいえ、別の女性と関係をもってしまった…… ここでランスロットは、もっと重要なことに気づきます。ギニヴィアだと思って、抱いちゃったってことは、アーサーを裏切ったことになるんじゃないのかと。この話はおもしろいし、とても重要なので、別のエッセイで詳しく紹介しましょう。




Q5

あのぅ、わたし十六歳の女子高校生です。なんか友だちは、みんなランスロット様がカッコいい! すてき〜 って騒いでるんですけどォ、わたしは、やっぱりアーサー様がすてきだと思うんです。それでぇ、ちょっと聞きにくいんですけどォ、アーサー様って、浮気とかしないんでしょうか? わたしにもチャンスあるかしら?


A5

さ、さあ? がんばってみてください。でも、たぶん難しいと思いますよ。アーサーが浮気したっていう記録は残ってませんからね。英雄色を好むって言葉のとおり、ほかの英雄は、たいてい、よろしくやってるんですけど、彼はマジメですね。アーサーと不倫するには、相当な努力が必要ですよ。

ご参考までに、妖精のヴィヴィアンが、アーサーに惚れちゃったエピソードをご紹介しましょうか。ヴィヴィアンは、猛烈にアーサーにアタックしたんですけど、彼は奥さんのギニヴィアを愛しちゃってるんで、ぜんぜん相手にしてくれない。そこでヴィヴィアンは、記憶を消してしまう指輪をアーサーの指にはめて、彼を記憶喪失にしちゃったんです。猛烈なストーカーですね、ヴィヴィアンって。ところが、記憶を消されても、アーサーはヴィヴィアンになびきませんでした。で、記憶を失ったアーサーは、森の中をふらふらと歩いていたんですが、ここで三人の悪い騎士に襲われます。いかに剣術に長けたアーサーでも、三人相手では分が悪い。そのとき、偶然通りかかって、アーサーを助けたのが、かの有名なトリストラムですね。彼もねえ、悲劇の人なんですよ。イゾーデとの、報われぬ恋。そして……

おっと、脱線しました。トリストラムについては、別のエッセイで書きましょう。とにかく、アーサーと浮気するのは大変だと思います。命がけでチャレンジしてください。

え? ヴィヴィアンは、どうなったのかって? しつこいね、あんたも。えーと、彼女はアーサーが振り向いてくれないことを悟ると、別の手段を考え出しました。なんとアーサーの後見人(?)だったマーリンをたぶらかし、彼をけっして出てこれない城に閉じ込めて、自分がマーリンの後釜に納まったのです。すごいですねえ。女の執念ですね。(ま、ヴィヴィアンに惚れちゃったマーリンも悪いんだけど)



Q6

アーサーたちって、いつの時代の人なんですか?


A6

え? ああ、失礼。真面目な質問だったんで、驚いちゃいました。ええと、なにせ伝説ですから、ハッキリしていないんですが、アーサーの生まれたのは、紀元465年ごろといわれています。そして死んだのは紀元540年ごろ。逆算すると75歳ですね。けっこう長生き? とすると、ギニヴィアも、ずいぶんおバアちゃんに…… いやだァ、夢が壊れるーっ!

し、失礼しました。つい、取り乱してしまいまして。えー、アーサー王たちの年代については、諸説が入り乱れていますので、正確なことはだれにもわかりません。ま、だいたい五世紀ごろと、覚えておいてください。



Q7

わたしは十八歳の女子大生です。わたし、だれがなんと言おうと、ガウェイン様が素敵だと思うんです。で、お誕生日にプレゼントを送りたいんですけど、彼の好きなものとか、教えていただけませんか?


A7

また、この手の質問か……

ええと、そうですねえ。あの時代ですから、大したモンはありませんよ。だいたい、ガウェインの誕生日なんて、だれも知らないし。まあいい。彼の好物はリンゴです。青森県の美味しいリンゴを贈ってあげたらいかがですか? 喜びますよ。

ただし彼は、一度、毒リンゴで殺されかかってますから、逆効果かもしれません。彼のリンゴ好きは有名だったので、毒を盛られたのです。幸い、ガウェインが食べる前に、別の騎士がそのリンゴを食べてたので、ガウェインは無事でした。え? その騎士はどうなったかって? もちろん死にましたよ。合掌。



Q8

ジークフリート様って、背中が弱点らしいですけど、本当ですか?


A8

本当ですけど、質問する場所を、お間違えです。ここはケルト人の伝説である、アーサー王の質問箱ですよ。ジークフリートは、ゲルマン民族の伝説で、しかも、十三世紀ごろ成立した話なんで、時代も違います。



Q9

オレ、十七歳の真面目な高校生なんだけど、どうしても気になるんだよね。ガウェインが死んだあと、奥さんのラグネルは、どうしたんだ? オレさあ、けっこう未亡人って好きなんだよ。すげえ美人だって言うしさ。紹介してくんない?

A9

どいつも、こいつも……

いいですよ。紹介してあげましょう。ラグネルは、ガウェインが死んだあと、ふたたび元の呪いに呪われて、バケモノに戻りました。さあ、どうしましょう? 来週あたり合コンでも開きますか? ちなみに、二度と呪いは解けませんよ。

嘘です。

ラグネルの消息は明らかではありません。ガウェインが死んだあと、彼女もすぐに息を引き取ったとも、ウエールズの森で、ひっそりと、彼の子供を育てたとも伝えられています。でも、それ以前に、ガウェインに解いてもらった呪いは、七年でもとに戻ってしまったという説もあります。(で、その後、悲観したラグネルは、自殺したとも、やはり、森の中でひっそりと暮らしたとも言われています)



と、こんなところで、いかがでしょう?



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