結婚と離婚

 今回はギリシャから離れて日本の神様をご紹介しましょう。

 さてさて。まずもって日本神話の始まりから語りましょう。ちなみに「古事記」を下地にしてます。

 日本の神様の最初だろ。知ってるよ、イザナギとイザナミだろ。と思ったあなた。あながち間違いでもないですが、正解じゃありません。古事記に一番最初に登場するのは、「アメノミノカヌシノ神」ざんす。この神様、じつは現れただけでその姿は見えず、なんだかいるんだかいないんだか、よくわからん神様なんです。つぎに出てきたのは「タカミムスヒノ神」と「カムムスヒノ神」。このお二方も姿は見えず、いるんだか、いないんだか…… うーむ。さらに「ウマシアシカビヒコヂノ神」と「アメノトコタチノ神」。なんだかなあ。三回見直しましたが、それでもキーボードを間違って打った気になる名前ばかり。一応、この五神が、天の神様ってことになっております。この辺は「日本書紀」も同じです。

 で、そのあとも出るわ出るわ、うじゃうじゃ出てきます。さすが八百万の神の国。めんどくさくて書きたくもない。ですが、この初期の神様の中で、最後に出てきたイザナギとイザナミだけは別格です。

 というわけで、イザナギとイザナミから始めましょう。(だから、この神様たちが最初だと言っても、あながち間違いではない)

 このお二方。よく神前式の結婚式で神主が「イザナギ、イザナミの大神たち、アメノ身柱めぐりて、嫁ぎの道をお越しせしまにまに…… むにゃむにゃ」みたいなことを言っているとおり、結婚の儀式、って言うか「男と女がくっついて家庭を作る」という行いを始めた神様なわけです。

 えーと、このページには思春期のお子様はあんまり来ていないと思うので書いちゃいますが、イザナギ(男神)がイザナミ(女神)にプロポーズした言葉がなかなかすごい。

 イザナギがイザナミに聞きます。
「イザナミ。おまえの身体は、どんなふうに出来ている?」
「はい…… じつは、ほとんど出来上がっているのですが、どういうわけか、不足しているところがあるんです」
「なんと! いや、じつは、オレもほとんど出来上がってるんだが、どういうわけが、余分なところがあるんだ」
「まあ、そうなんですの?」
「そうなんだよ。そうか、ふうむ。じゃあどうだろう。オレの余分なところを、おまえの足りないところに差して、国を作らないか?」
「あら。いいですわね」

 と、なったわけです。わかります? ええと、まあ男には両足の間に余分な(余分じゃないわい!)モノがくっついてるわけで、女性には、そのあたりに、その「余分なモノ」を差すのにちょうどいい具合の「足りないところ」っていうか、ジャストフィットっていうか、むにゃむにゃ。という部分があるわけで、早い話、ベッドに行こうじゃないかと。そんでもって国造りに励もうじゃないかと。前向きに善処しようじゃないかと(なんじゃそりゃ)。まあイザナギくんは、そういう、そんなこと現代の女性に言ったら張り倒されるような(いや、セクハラで訴えられるか?)プロポーズをしたわけなんですな。

 さて。イザナギとイザナミは、大きな柱を左右反対に回って、そこで結婚しようと約束しました。(なんで、そんな文字どおり回りくどいことをしたんだか)

 で、いよいよぐるりと回って二人は出会います。
「まあ、なんって素敵な殿方なんでしょう」
 イザナミはイザナギを見て喜びます。
 イザナギも、そんなイザナミを見て、
「きみこそ、なんて美しい女性だろう」
 と、喜びます。

 が。最初にできた子供が、どーも変なので、こりゃおかしい。と思います。二人は自分たちより古い天の神様(上に書きましたよね)に相談します。

「ああん。なに、女の方から先に声をかけた? あんた、そりゃマズイって。男の方から声をかけなきゃイカンよ、きみい」

 と、言われます。つまり、ナンパは男がしなきゃいかんと、古き古事記にも書かれているわけなんですな。逆ナンパはいかんのですよ、現代女性のみな様。告(コク)るときは男から。古臭いね。(あたり前か)

 そんなわけで、二人は結婚をやり直します。今度はイザナギの方から「なんて素敵な女性だろう」。で、イザナミが「あなたも素敵ですわ」と、順番を間違えずに結婚しました。ふう。なんだか、よくわからん。

 とにかく、これで一件落着。このあと二人は、どんどこ子供(?)を作って、それが四国、九州、そして本州になったとさ。

 だんだん、バカバカしくなってきたぞ。とっとと「日本のもっとも美しい女神」を書きたいんで(やっぱ、そこから書くのね)、イザナギ、イザナミの二人は、さらっと終わらせましょう。

 ええと、この二人は子供を生むのが仕事みたいなもんで、「日本列島」を作ったあともどんどこ子供を作り、それがさまざまな神様になりました。が、イザナミが「火」の神様を生んだとき、大やけどをしてしまって(なんだかなあ、もう)、瀕死の重傷になってしまいます。病気の床でも子供を生みつづけ、イザナミは、とうとう死んでしまいます。最愛の妻を失ったイザナギは泣きました。その涙からも子供(神)が生まれました。

 イザナミのお葬式に、子供たちが参列しましたが、その中に「火」の神様。つまり、イザナミが死ぬ原因になった神様もいました。イザナギは、「きさまー! 母を殺しておいて、よくこの場にこれたもんだな!」と、逆恨みして、その火の神様の首をハネます。その血からも神様が生まれます。

 子供を殺しても、まだ最愛の妻が忘れられないイザナギ。その想いは、日々強くなるばかりで、とうとう黄泉の国へ行って、イザナミを取り返そうと決心します。そんで、さっそく黄泉の国へ。

「イザナミ! 迎えに来たぞ!」
 が、イザナミは姿を見せようとしません。戸口の向こう側から、声だけがします。
「ああ、あなた。来ていただいてうれしい。でも、少し遅すぎました。わたし、黄泉の国の食べ物を食べてしまったのです」
「なんだってー! と、驚いといてなんだが、それってどういうこと?」
 ガクッ。イザナミがスッコケる音が聞こえる。
「ええと…… とにかく黄泉の国の食べ物を食べたものは、現世へ戻れないのです」
「なんですと! そりゃないよ、聞いてないよ、そんなの!」
「ごめんなさい。でもでも、わたしも、あなたと一緒に帰りたい。どうか、少し待っていてください。黄泉の国の神様に、なんとか帰れないものか聞いてまいります」
「そうしてくれ」
「あなた。一つだけ約束してくださるかしら?」
「なんだ?」
「黄泉の国の神様と、わたしが相談しているところを、けっして、けっして、見ないでください」
「いいとも」

 もう、わかりますよね。「のぞかないでね」と言われて、のぞかないなんてことがないのは。そうですとも。イザナギくん、ちゃんと(?)のぞきましたよ。

 すると!

 なんとなんと、あの美しかったイザナミは、黄泉の国の食べ物を食べて、恐ろしいバケモノになっていたのでした。

「ギャーッ!」

 だれの悲鳴かって? イザナギくんですよ、イザナギくん。百年の恋もいっぺんに冷めるとはこのこと。

「バケモノめー! てめえなんか、もう妻でもなんでもないわい!」

 と言って、すたこら逃げていきます。これで怒らない方がおかしい。「おのれえ、イザナギめえ、よくもわたしの恥をかかせたな」と、追い掛けます。あのう、あなたがた、愛し合ってた夫婦だったんじゃ…… まあ、いいか。

 なんとかかんとか逃げおおせたイザナギですが(いろいろあったんだけど、書くのがめんどうだ)、黄泉の国を出て行こうとするイザナギに、イザナミが叫びます。

「おのれ、イザナギ! おまえがこんな仕打ちをするなら、おまえの国の人間を一日に千人殺してやる!」
「ふん。だったらオレは、一日に千五百人生んでやるさ。あばよ!」

 あ~あ。愛が冷めると怖いよね。というか、イザナギって最低野郎だね。こんな男と結婚しちゃイカンよ。ちょっとイザナミがかわいそう。

 とにもかくにも、こうして、初めて「結婚」をした神様は、初めて「離婚」した神様にもなったのでした。なんともはや。

 この世に戻ってきたイザナギは、着ているものをぜんぶ脱いで、身体を洗います。

「かーっ、汚ねえ。早く身体を洗わなきゃ」

 ということなんでしょう。つくづく、最低野郎だぜ。ま、イザナギの人格はともかく、この間にも、どんどこ子供(神)が生まれて(なんと、服を脱ぐたんびに、そこから神様が生まれた)、川に入って身体を洗っても、そこから神様が生まれて、いよいよ最後に左目を洗ったとき生まれたのが「アマテラス」。右目を洗ったときが「ツクヨミ」。鼻を洗ったときに「スサノオ」が生まれたんです。イザナギは、この最後に生まれた三人に特別強い力を感じました。そんで、アマテラスには天を、ツクヨミには夜の世界を、そしてスサノオには海を治めるように命じました。

 こうして、日本神話(古事記)の三大神が生まれたのでした。

 さあ、今日はもうこの辺で終わり。次回はいよいよ、日本神話の中で、もっとも美しい(TERUの主観による)女神にご登場願いましょう。乞うご期待!